公開日:2020.07.16
令和2年7月9日最高裁判決・交通事故の後遺障害逸失利益についての定期金賠償判決(将来月々の分割払いの方法による判決)
判例について
令和2年7月9日、最高裁判所において、次のような定期金賠償(月々の分割支払い)を認める判決が下されました。
【事案】
10トントラックに4歳の子が轢かれ、脳挫傷等の傷害を負い、高次脳機能障害等の後遺障害(後遺障害等級第3級3号)が残存した事案。
【最高裁判決】
後遺障害の逸失利益(及び将来介護費用)について、定期金賠償を認めました。
【経過概要】
2007年(平成19年)交通事故発生。
2012年(平成24年)症状固定診断。
2015年(平成27年)訴訟提起。
2020年(令和2年)7月9日、最高裁まで争われた末、最高裁判所は、次の定期金賠償を認めた原審高等裁判所判決の判断を維持しました。
なお、事故当時4歳であった子は、当該最高裁判決の日には17歳となっています。
※定期金賠償となった損害項目のみ紹介しています。
損害項目 | 期間 | 月々の金額 |
将来介護費用 | 2016年(平成28年)11月から ~2018年(平成30年)3月まで (=将来分として定期金の請求をした月から被害者の義務教育終了まで) |
月々7万3000円 |
2018年(平成30年)4月から ~2034年6月まで (=義務教育終了から被害者を介護する親が67歳になるまで) |
月々16万1333円 | |
2034年7月から ~被害者死亡まで (=被害者を介護する親が67歳になってから被害者死亡まで) |
月々19万4666円 | |
逸失利益 | 2020年(令和2年)9月から ~2069年8月まで (=被害者18歳から67歳まで) |
月々35万3120円 |
※支払い義務者
・トラック運転手
・トラック保有会社
・トラック付帯任意加入自動車損害賠償保険会社
【本判決の特徴】
・後遺障害の逸失利益についても、被害回復と損害の公平な分担という損害賠償制度の目的と理念に照らして相当と認められるときには定期金賠償の対象となると判示しました。※1
・定期金賠償においても、後遺障害残存後、被害者が別原因で死亡しても、原則として賠償金額に影響しないとしました。※2
・定期金賠償の最中に被害者が死亡した際には、民事訴訟法117条を適用又は類推適用し、一時金(一括払い)による賠償に変更する訴えを提起する方法に言及しました。※3
※1 将来介護費用に関しては、定期金賠償は従前より認められていました。
※2 一時金賠償については、従前より同旨判例がありました。
※3 小池裕裁判官の補足意見にて言及されています。
【関連条文】
民事訴訟法117条
1 口頭弁論終結前に生じた損害につき定期金による賠償を命じた確定判決について、口頭弁論終結後に、後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更が生じた場合には、その判決の変更を求める訴えを提起することが出来る。ただし、その訴えの提起の日以後に支払期限が到来する定期金に係る部分に限る。
2 前項の訴えは、第一審裁判所の管轄に専属する。
【実務への影響】
・逸失利益について定期金賠償が認められたことで、“被害回復と損害の公平な分担という損害賠償制度の目的と理念に照らして相当と認められるとき”という判決の内容について、どのような場合まで含まれるかと関連しますが、今後、逸失利益の定期金賠償を求める請求の途が明確になり、その紛争も増える可能性があります。
・逸失利益について定期金賠償が認められた後、定期賠償額と実際の損失額との乖離が生じてきた場合には、民事訴訟法117条による確定判決の変更を求める訴えによって、その是正を図ることが可能、という判断であり、再度、協議・交渉・訴訟等の可能性が残存します。
・当事者間で、支払管理、事情変更の際の協議・訴訟提起等が継続することから、権利者側も義務者側も、一定の民事紛争当事者としての関係性、諸負担が継続することになります。
【メリット・デメリット】
定期金支払い(将来に渡る分割支払い)について一時金支払い(一括支払い)と比較した時のメリット・デメリットとしては、例えば、次のようなことが挙げられると思います(下記に限定されるわけではなく、また、メリットと捉えるかデメリットと捉えるか人によるところもあるでしょう)。
メリット
・中間利息控除がなされない分、獲得できる賠償金の総額は増えます。
・その後の後遺障害の程度、賃金水準その他の損害額の算定の基礎となった事情に著しい変更があった際、変更後の事情に応じた条件の変更が可能となります。
デメリット
・支払義務者次第ですが、義務者の失踪や破産などといったその後の事情の変化で、回収困難な事態が発生するリスクが生じます。
・一時金支払いは、支払いがあれば交通事故の民事紛争としては解決となりますが、定期金支払いは、権利者側も義務者側も、その後の支払管理が必要であり、事情変更の際に、再度、協議や訴訟提起を要するなど、一定の紛争、負担が継続します。
以上の要素などを考慮しつつ、賠償方法の選択は、慎重に判断すべきと考えます。
あとがき
このような案件では、賠償法理上、生命・身体・戻らない日常や夢など、本来、お金に換えることのできないものを、金銭的に評価して賠償額と方法を定めなければならないことの難しさがあります。
「償いきれるはずもないが せめてもと 毎月あの人に仕送りをしている」という、死亡事故を起こした彼を歌った「償い」の歌詞(歌手:さだまさし)が頭に浮かんできます。
重篤事故の被害者側の闘いは、生涯続きますので、加害者側としても、刑事罰で罰金を払い、賠償金も保険会社によって支払いをしてもらったら終わり、というような考え方をする方がいれば、是正すべきでしょう。煽り運転などの危険かつ無謀な運転について連日のようにニュースに流れておりますが、そのような運転者には、特に上記「償い」を聞いてもらいたいものです。
なお、本件事故は、4歳の子が、路外駐車車両の陰から反対側に行くために駆け出して道路に飛び出し、降雪後の凍結路面を走行していたトラックが衝突した交通事故であるようです。
他人事と思わず、いつ被害に遭うかわからない、いつ加害者となってしまうかわからない、と考えて、交通事故には、本当に細心の注意を払っていきましょう。
【令和2年7月9日最高裁判決】
最高裁判所HP
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/571/089571_hanrei.pdf
弁護士 力丸