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弁護士・スタッフブログ / コラム

公開日:2021.12.16

令和3年11月2日最高裁判決(同一事故による物的損害と人的損害は別個の請求権)

判例について

令和3年11月2日、最高裁判決において、「同一事故による物的損害の賠償請求権と人的損害の賠償請求権は、それぞれ請求権(訴訟物)が異なる」旨、判示されました。
実務への影響のある、注目に値する判決ですので、ご紹介いたします。

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物的損害、人的損害、訴訟物(請求権)とは

「物的損害」とは、例えば修理費、車両積載物、着用物品などの、物に関する損害です。
「人的損害」とは、例えば治療費、慰謝料、後遺障害逸失利益などの、生命または身体傷害に関する損害です。

そして、「訴訟物」(請求権)というのは、例えば、その訴訟物について一旦判決が出たら、その後同じ訴訟物についての蒸し返しての訴訟提起ができなくなるなど、判決の効果が及ぶ範囲の基準となります。

令和3年11月2日最高裁判決について

令和3年11月2日最高裁判決では、この訴訟物に関し、次のとおり判示しました(以下「本判決」といいます)。

「交通事故の被害者の加害者に対する車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権の短期消滅時効は、同一の交通事故により同一の被害者に身体傷害を理由とする損害が生じた場合であっても、被害者が、加害者に加え、上記車両損傷を理由とする損害を知った時から進行するものと解するのが相当である。
なぜなら、車両損傷を理由とする損害と身体傷害を理由とする損害とは、これらが同一の交通事故により同一の被害者に生じたものであっても、被侵害利益を異にするものであり、車両損傷を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権は、身体傷害を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権とは異なる請求権であると解されるのであって、そうである以上、上記各損害賠償請求権の短期消滅時効の起算点は、請求権ごとに各別に判断されるべきものであるからである。」

物的損害と人的損害の消滅時効について

民法では、物的損害の消滅時効は3年、人的損害の消滅時効は5年と定められています。
※人的損害の消滅時効は、平成29年の民法改正において、3年から5年に延びました。(民法724条の2)

消滅時効の起算点について-いつから3年~5年?-

それでは、いつから3~5年なのでしょうか?
判例上、時効期間の起算点である「損害及び加害者を知った時」とは、「被害者において、加害者に対する賠償請求が事実上可能な状況のもと、その可能な程度に加害者及び損害を知った時」であり、損害の発生を現実に認識しなければならないが、その程度や金額までを知ることは必要ないとされています。

物的損害は、原則として「事故日から」3年とされることで、起算点が問題となる場面は多くありません。
一方、人的損害の場合は、その治療が長引くことも多く、起算点が問題となる場面も多くあります。

下級審判決や交通事故実務では「症状固定時から」とされることがありますが、最高裁判所(下記平成16年12月24日最高裁判決など)においては、遅くとも症状固定の診断を受けた時から時効が進行しているものと判示されているのみで、いまだ①原則として「事故日から」進行するという説と②「症状固定の診断を受けた時から」または「症状固定日から」進行するという説との、いずれの立場にあるのか明らかではありません。

平成16年12月24日最高裁判決の判示内容は次のとおりです。

被害者たる「被上告人は、本件後遺障害につき、平成9年5月22日に症状固定という診断を受け、これに基づき後遺障害等級の事前認定を申請したというのであるから、被上告人は、遅くとも上記症状固定の診断を受けた時には、本件後遺障害の存在を現実に認識し、加害者に対する賠償請求をすることが事実上可能な状況の下に、それが可能な程度に損害の発生を知ったものというべきである。自算会による等級認定は、自動車損害賠償責任保険の保険金額を算定することを目的とする損害の査定にすぎず、被害者の加害者に対する損害賠償請求権の行使を何ら制約するものではないから、上記事前認定の結果が非該当であり、その後の異議申立てによって等級認定がされたという事情は、上記の結論を左右するものではない。そうすると、被上告人の本件後遺障害に基づく損害賠償請求権の消滅時効は、遅くとも平成9年5月22日から進行すると解されるから、本件訴訟提起時には、上記損害賠償請求権について3年の消滅時効期間が経過していることが明らかである。」

なお、この事案では、後遺障害の非該当結果に対する異議申立ての後、後遺障害等級12級認定がなされましたが、その後の訴訟提起による損害賠償請求は、消滅時効によって消滅したものとされました。

本判決の実務への影響について

本判決によって、次のような影響があります。

訴状の書き方への影響

まず請求権が異なるのですから、訴状(請求の趣旨)の書き方などにも影響します。
早速、弁護士に対しても、とある裁判官から、「今後、本判決を踏まえて、物的損害と人的損害とは、それぞれ分けて請求の趣旨を書いてほしい」といった話があっているようです。

また、被害者の治療が終わっていない段階で物的損害のみの訴訟を先行させるという場合、明示的一部請求といった方法で訴訟物を分けておき、物的損害の解決後であっても、後々に人的損害の請求をすることができるように手立てを講じておくこともありましたが、訴訟物が別個であるならば、このような手立てを講じる必要性も乏しくなったと言えます。

消滅時効には留意する必要がある

一方、訴訟物が別個であることが判例上明確になった以上、その請求による時効完成猶予(民法改正前の「時効中断」)などの範囲は、一層、注意していかなければなりません。例えば、人的損害の損害賠償請求権のみについて、承諾等によって時効の更新をしたものの、物的損害の損害賠償請求権は消滅時効で消滅してしまう、というような事態にならないよう、対応しなければなりません。

学説への影響

訴訟物が別であるとする本判決の判断は、物的損害と人的損害の消滅時効の起算点に関する学説の対立にも、影響を与えるものとなります。
消滅時効の起算点が物的損害と人的損害とで異なると考える立場において、損害賠償請求権の訴訟物は一緒であるという学説の立場に依拠する際にはひと工夫のロジックが必要でしたが、本判決のように訴訟物が別々であると考える立場に依拠すると、説明は付きやすくなるかと思います。
本判決も、請求権が別々だから、「そうである以上」、消滅時効の起算点は、請求権ごとに各別に判断される、と判示していますね。

繰り返すとおり、人的損害の消滅時効の起算点がいつであるかは本判決の射程外であり、最高裁判所の立場が明らかになっているとはいえません。
引き続き動向を注目していきたいと思います。

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