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弁護士・スタッフブログ / コラム

公開日:2022.05.31

4630万円誤送金 | 阿武町の民事的打ち手とは | 弁護士が解説

桑原ブログ

山口県阿武町による4630万円もの誤送金は、発生した4月以降、耳目を集めました。阿武町や誤送金を受けた24歳、町職員、金融機関、決済代行業者、ネットカジノ業者、司法関係者と多くの人を巻き込みました。法律的にも民事法、刑事法、行政法と幅広い分野でスポットが当たっています。今回は2点に絞って解説します。

(本記事は、2022年5月27日時点の情報をもとに執筆しております。)

4630万円誤送金 | 阿武町の民事的打ち手とは

電子計算機使用詐欺罪とは

1点目は、24歳が逮捕された容疑「電子計算機使用詐欺罪」について、2点目は町と関係者間の民事的な法律関係についてです。

まず電子計算機使用詐欺罪(刑法246-2)です。簡単に言えば、コンピューターに不正な指令を与えて、現金等を確保する記録(データ)を作ることです。
窃盗罪(刑法235条)や詐欺罪(刑法246条)が、具体的な物(現金など)の移動がないと成立しないことから、コンピューター社会において1987年の刑法改正で設けられた犯罪です。

犯人が、金融機関の窓口で手続きして誤送金を払い戻せば、人を欺いて現金の交付を受けたと言えるので「詐欺罪」が、ATMを操作して払い戻せば、金融機関の保管する現金を盗み取ったと言えるので「窃盗罪」が成立します。

阿武町の事件では4630万円もの額が、ネット決済により決済代行業者に移し替えられているので、警察は「電子計算機使用詐欺罪」の容疑で逮捕したというわけです。

本記事の執筆時点(5月27日)で、9割ほど回収したと報道されています。これが容疑者の刑罰(量刑)にも相当程度影響を与える可能性はありますが、容疑者が自分で積極的に返還(賠償)した訳ではありませんので、かなり軽くなる訳でもなさそうです。

阿武町と関係者間の民事的な法律関係

2点目に、町と関係者間の民事的な法律関係を考察してみましょう。まずは町と容疑者との関係です。

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①阿武町→容疑者:不当利得返還請求権

容疑者に振り込まれた臨時特別給付金4630万円は、町職員が誤って振り込んだものであり、容疑者に給付される法律上の原因がないことから、町は容疑者に対して「不当利得返還請求権」を有することになります。

誤送金を受けたあと、容疑者が返金を拒絶して決済代行業者に送金、自分のために使おうとする行為をした時点で、容疑者には「電子計算機使用詐欺罪」が成立し、町は容疑者に対して、不法行為に基づく損害賠償請求権を有することになります。

阿武町は容疑者に対し、4630万円に加えて弁護士費用などを上乗せし、5116万円の支払いを求める民事訴訟を起こしました。容疑者は4630万円の部分は認めていると報道されています。

弁護士費用については不当利得では請求できませんが、不法行為では上乗せして請求することが一般的に認められています。

裁判所は実際にかかっている具体的な委任契約報酬の額を無視して、不法行為本体の損害額の10%程度を認めるのが慣例です。

阿武町もこの慣例にならい、10%に当たる463万円の弁護士費用を加えて民事訴訟を起こしたわけです。

②阿武町→振込先の金融機関:払い出し停止措置の余地も

次に、町と振り込み先の金融機関との関係です。

町は、振り込み元の金融機関に、容疑者の預金口座を管理する振り込み先金融機関に対する振り込みを依頼しています。

振り込み元と振り込み先の金融機関が同じでない限りは、町と振り込み先金融機関との間に契約があると考えることは難しそうです。

契約に基づく請求ができないとすると、他の法律上の根拠をもって、振り込み先金融機関に入っている預金を、払い出しや送金などされないようにしなければなりません。

そのため阿武町が容疑者に要請したのが、資金を振り込み依頼人(=阿武町)に戻す「組み戻し」の手続きですが、容疑者が拒絶したため実現しませんでした。

これができない以上、仮差し押さえや払い出し禁止の仮処分など、裁判所による強制的な命令が発令されない限り、振り込み先の金融機関が容疑者による送金などの手続きを拒むのは難しいわけです。

ただし阿武町は「組み戻し」の手続きを容疑者に断られた訳ですから、容疑者による払い出しや送金が予想できます。

振り込み先の金融機関に対して、容疑者による払い出しなどは犯罪となる可能性が高いことを通告するなどして、払い出しや送金の停止措置を要請する余地もあったようにも思われます。

③阿武町→決済代行業者:国税徴収法に基づく債権の差し押さえ

最後に、町と決済代行業者の関係です。当然ながら町と決済代行業者間に契約などはなく、預金に特定性もないので、町が決済代行業者から直接回収するのは、認めづらいようにも思えます。

しかし法曹関係者であれば思いつく打ち手として、債権の差し押さえか、債権者代位権(さいけんしゃだいいけん、民法423条)が考えられます。

債権者代位権とは、債権者(ここでは町)が、自己の債権を保全するため、債務者(ここでは容疑者)に属する権利を、債務者に代わって行使する権利です。

町は容疑者に対し「不当利得返還請求権」、または不法行為に基づく損害賠償請求権を有しています。

容疑者には4630万円を直ちに返済する能力はないとされています(無資力)。

容疑者は決済代行業者を使って、公序良俗(民67法90条、刑法185条・賭博罪)違反の疑いがあるネットカジノを行っています。

容疑者と業者の「委任契約」を公序良俗違反で無効と解釈して、町が有する「不当利得返還請求権」を使って差し押さえるか、「債権者代位権」を行使するわけです。

債権の差し押さえと「債権者代位権」の行使は、経済的には同じ機能です。町の代理人は、より強力な手続きである国税徴収法に基づく債権差し押さえを行い、被害の回復に成功したというわけです。

公序良俗違反で容疑者と業者との「委任契約」が無効となるかどうかは、法律的には微妙な事案です。

金融機関や決済代行業者は「犯罪による収益の移転防止に関する法律(マネーロンダリング防止法)」における「特定事業者」ですので、コンプライアンス上のリスクを回避するため、早期に返金に応じた可能性がありそうです。

法律関係の基点をどこに置くか

こうしてみますと、町を基点として考えるだけでも、各関係者との間で様々な法律関係が展開していくことがわかります。

容疑者を基点とした場合、各金融機関を基点とした場合、ネットカジノ業者を基点とした場合など、整理した上で考えないと錯綜します。

ネット上では混乱した記載も見受けられますので、ご注意ください。

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