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COLUMN

弁護士のコラム

公開日:2024.09.26

公益通報者保護法の意義と企業の理解

桑原ブログ

 連日、斎藤元彦兵庫県知事(注: 執筆時 ・令和6年9月19日現在)のパワハラやおねだり報道が続いてます。最近では、内部告発者たる元職員に対する停職3カ月の懲戒処分について、公益通報者保護法違反ではないか、という報道も続いています。知事側は法律違反を否定していますが、百条委員会委員や専門家は明らかな法律違反だと意見しているようですので、この機会に公益通報者保護法について、理解を深めてみましょう。
 兵庫県知事の事件について、各種報道を踏まえて、整理してみます。
 元職員は令和6年3月中旬、知事や県幹部らのパワハラ、贈答品受領などの疑惑を指摘した告発文書を一部の報道機関などに送付した。知事は3月20日に経緯を把握し、公益通報者に当たるか検討しないまま、21日に人事当局の内部調査を始めた。元職員は4月4日、庁内の公益通報窓口に通報したが、人事当局の調査は続いた。県は5月7日、「告発文書の作成・配布」「人事データの専用端末を不正利用、個人情報の持ち出し」などの行為があったとして、停職3カ月の懲戒処分とした。元職員は7月に自殺したとみられる。
 公益通報者保護法は、文字通り、公益通報者の保護を図ることを目的とする法律です(法1条)。
 保護の対象となる公益通報の主体として、労働者や退職者、役員等が規定されています(法2条1項各号)。地方公務員である元職員も、兵庫県との関係では「労働者」に該当します。
 また、公益通報の相手方としては、①役務提供先である事業者(いわゆる「内部通報」)、②事業者を所管する行政機関、③報道機関等の第三者(条文では「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生若しくはこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者」)が規定されています(法2条1項)。したがって、兵庫県の「労働者」たる元職員による「報道機関への告発文書送付③」や「庁内の公益通報窓口への通報①」に、「公益通報の対象事実」に該当する内容が含まれている場合には、「公益通報」を受けた事業者(兵庫県)はこの法律の規律に服することになる訳です。
 また、公益通報の対象事実とは、事業者や事業者の役員・従業員らによる主に犯罪行為や過料の対象となっている違法行為等を指します(法2条3項)。そのため、県、県知事又は幹部職員らが、これら違法行為等を行っていることを内容とする場合には、公益通報の対象事実を通報していることになりますので、通報者が保護される訳です。
 公益通報と認定された場合の効果として、公益通報者に対する解雇処分は無効となります(法3条)し、降格、減給、退職金の不支給その他不利益な取扱いも禁止されます(法5条)。本件では、県(県知事)は、通報者たる元職員に対し、停職3カ月の懲戒処分という不利益な取扱いを行っていますので、法5条違反となるでしょう。
 報道によれば、「告発文書」の中身が知事に対する事実と異なる内容を含んだ誹謗・中傷的な内容だったという事実はあるようですが、他方で事実と認められる内容を含んでいた部分もあるようですので、知事側が違法行為をすべて行っていないことを立証できない限り、公益通報者保護法違反となると思われます。
 また、4月4日に元職員が正式に「庁内の公益通報窓口に通報①」していることからすれば、知事側は公益通報者保護法違反を検討する機会も与えられたのに、その検討もなされずに元職員3カ月の懲戒処分にしているようですので、知事の責任は非常に重いと言えるでしょう。
 企業経営者の皆様。従業員等から自身の誹謗・中傷を受けた場合、どう反応されるでしょうか。感情のままに反撃することなく落ち着いて、冷静な第三者に相談しながら公益通報者保護法の趣旨も踏まえた対応をすることをお勧めします。

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