公開日:2024.12.26
公益通報者保護法・兵庫県知事再選で振り返り
桑原ブログ
令和6年11月17日、斎藤元彦氏が兵庫県知事に再選し、大手メディアはマスメディアの敗北・SNS の勝利とか、フェイクニュースの氾濫するSNS 規制をすべきとか、斎藤知事は公職選挙法の買収罪ではないかなど、斎藤氏に批判的な報道を維持しています(12月9日現在)。
他方で、斎藤知事再選後はNHK 党の立花氏らのユーチューブ動画等がますます拡散され、通報者であった元西播磨県民局長(元職員)の自殺原因は職場内での複数の不倫発覚を恐れたからだとか、県議会が行ったアンケート調査が不公正であったとか、パワハラやおねだりの証拠がほとんど出てこなかったなど、マスメディアの偏向報道があったのでは?とSNS 上を賑わせています。
私自身も、所報9月号でこの話題を取り上げ、「知事が、元職員が公益通報者に該当するか検討していなかった」とか、「知事側が違法行為をすべて行っていないことを立証できない限り、公益通報者保護法違反となると思われます」などと執筆していたのですが、その後の私なりの調査と考察により下線部は不正確と考え直したので、反省の意味も込めて、公益通報者保護法違反の成否について再考察したいと思います。
大まかな事実経過を整理しておきます。
令和6年3月12日、元職員は、知事や県幹部らのパワハラ、贈答品受領などの疑惑を記載した告発文書を報道機関や議員等に送付した(外部通報・3号通報)。斎藤知事は3月20日には文書を把握して調査を指示し、3月25日には元職員の公用パソコンを預かって調査を開始した。元職員は4月4日、県の公益通報窓口に同種告発文書を内部通報した(1号通報)。県は5月7日に元職員を停職3か月の懲戒処分とした。県議会は6月13日百条委員会の設置を決定し、7月19日に元職員の証人尋問が予定されていたが、7月7日に元職員は自殺した。その後、大手メディアで知事が元職員を自殺に追い込んだことや、知事のパワハラ、おねだり報道が苛烈に報じられ、9月19日に知事に対する不信任決議が全会一致で可決され、知事は失職して出直し選挙が実施されることになった。その後、知事に対するSNS 上での評価が激変して、11月17日に選挙で再選した。
公益通報者保護法で保護の対象となる「公益通報」に該当するためには、「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的でないこと」という要件を満たす必要があります(法2条)。
SNS 上であふれる各種情報を丹念に見ていくと、元職員は斎藤知事その他の幹部職員を引きずり落とすため(「クーデター顛末記」というファイルもあった模様)に、公益通報を行った可能性が出てきます。これが事実であれば、元職員による通報は、「不正の目的」での通報となりますので、そもそも「公益通報」とは言えないことになります。結果、斎藤知事が地方自治法の規定に基づき、元職員に懲戒処分を下したことは何ら問題がなかった、ということになります(元職員も懲戒処分を不服とする手続は行っていません)。知事側が元職員の「不正の目的」を立証できさえすれば、元職員の通報の一部に事実が含まれていたとしても、当該通報全体としては「公益通報」とは言えない可能性が出てくるのです。
ところが大手メディアでは、上記公用パソコンに保存されていたファイルの存在を含め、11月末頃以降この問題をほとんど報道しなくなりましたので、斎藤知事に有利な情報はあえて報道せず、斎藤知事を陥れる方向での情報ばかり偏向報道しているというSNS 上での多数意見に、分がある感じになってきています。
今回たまたま出直し選挙が実施されてSNS 上でメディアが報じない多くの情報が流布しなければ、当該偏向報道に多くの市民が気付けなかった可能性は高いでしょう。その意味で、多様な情報や意見で溢れるSNS 情報を有力な情報媒体として自ら活用できる人の方が、より真実に迫れる場合もあり得ることを見せつけられたように思います。
私自身の所報9月号も訂正します。「知事は、元職員が公益通報者に該当するか弁護士に相談した上で、該当しないと判断していた。」「知事側は、元職員が不正の目的で通報が行われたことを立証できれば、公益通報者保護法違反とはならない。」
公益通報者保護法自体は、条文数はとても少ないのですが、表現がとても難解で素人にはなかなか理解しづらく、私が過去情報を検索した範囲でも多くのコメンテーターや一部弁護士が間違った発言(投稿)をしていましたので、法解釈って改めて難しいものだな~と感じました。