公開日:2025.03.26
目的の明確化で企業成長を促進
桑原ブログ
最近、「年収103万円の壁」の撤廃に関するニュースが話題となっています。年収103万円の壁とは、給与収入が103万円を超えると所得税が課され始め、配偶者控除など税の優遇措置が減る収入ラインを指します。政府・与党はこの壁を見直し、2025年より年収123万円まで所得税が非課税となるよう基礎控除等を引き上げる方針を示しました。
今回の103万円の壁撤廃という政策も、それ自体(課税ライン引上げ)は手段にすぎず、その背後には達成すべき目的があります。この施策の目的についてAI に尋ねてみると、❶働きたい人が自由に働ける環境の整備(働き控えへの対応)、❷人手不足の解消と経済成長の促進、❸公平な税・社会保障制度の構築などの回答が返ってきました。
AI らしい答えですが、100%正解とは言えなさそうです。国民民主党の政策各論インデックス(一次情報)によれば、①賃金デフレからの脱却(そのために物価を上回る賃金アップの実現)と、②消費力を高める(そのために「消費」を喚起する)という大(小)の目的があり、その手段として、③賃金上昇率以上に所得税の負担が増える「ブラケット・クリープ」に対応するため、所得税を課す最低金額の引上げ等を行う、と明記されています。
つまり国民民主党が掲げる「壁撤廃」は、①賃金デフレからの脱却と、②国民の消費力を高めるという目的を達成するための手段なのです。したがって単に「103万円の壁を撤廃する」というスローガンにとらわれるべきではありません。例えば、一度に課税最低限を178万円に引き上げてしまえば、約7.6兆円もの税収減となるとの試算があり、財源問題や社会保険の別の「壁」との兼ね合いを無視できません。手段の是非だけでなく、その目的に照らして妥当かを検証する姿勢が重要です。
目的と手段の明確化という視点は、企業経営においても非常に重要です。当事務所の経営理念にも、目的と手段の関係が見て取れます。経営理念の1つ目として、「クライアントのニーズと成長の実現」という言葉がありますが、これも目的(成長)と手段(ニーズ充足)の関係を表しています。ニーズを満たすこと自体が最終目的ではなく、その先にあるクライアントの成長というゴールを見据えているのです。
経営者は自社の経営理念やビジョンを反映させ、日々の施策(手段)が本来の目的に合致しているかを常に確認すべきです。例えば、IT導入で手段が目的化して失敗した例もあります。顧客データベース構築が目的となり、本来の売上拡大策が疎かになったようなケースです。このように手段に囚われてしまうと本来目指そうとしていた結果を生み出せなくなるリスクも高まります。AI活用などデジタル面の施策でも、「何のために行うのか」を見失わないことが重要です。 「103万円の壁」に関する議論からは、単なる政策論議とか政争といった話ではなく、手段に惑わされずに根本的な目的を直視することの重要性を考えさせられます。政治家、そして選挙で政治家を選んでいる我々国民は、税制改正という手段の先にある真の目的(①賃金デフレからの脱却、②消費力を高める)を見据える必要があります。企業経営者も同様に、自社の経営理念やビジョンの中に込められた目的を見失わずに意思決定する必要があります。何らかの効果的に思える提案をされたときに安易に採用する前に、「何のための提案なのか」という目的にフォーカスした上でより効果的な手段を選択することが、企業の成長につながっていくのだと思います。