公開日:2025.04.28
DX 推進とリスクマネジメント
桑原ブログ
桜前線も徐々に北上しつつありますが(4月10日現在)、新年度がスタートしました。企業の皆さまにおかれましては、新入社員の受け入れや組織改編など、何かと慌ただしい時期をお過ごしのことと拝察します。当事務所におきましても、新体制の準備とともに、今年度は「デジタルトランスフォーメーション(DX)の浸透とリスクマネジメントの強化」をテーマに掲げ、皆さまに一層有益な情報をご提供できるよう努めてまいります。今月は、DX の具体的な進め方と、それに伴う法的リスクの捉え方について考えてみたいと思います。
新年度に入り、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」というキーワードを耳にする機会がますます増えているのではないでしょうか。DX とは単にIT ツールを導入するだけでなく、企業文化や業務プロセスをデジタルの力で抜本的に変革し、新たな価値を創出する取り組みを指します。例えば、AI を用いたデータ分析による需要予測や顧客管理システム(CRM)の高度化、リモートワークに対応したクラウド環境の整備など、業種や各社の業態に応じて多様な施策が考えられます。
一方で、DX には必ずしも「最新のIT を導入すれば成功する」という単純な構図はありません。
目的を見失ったまま導入やシステム構築を始めてしまうと、費用対効果が得られずに中途半端な形で終わってしまうケースが少なくありません。先月号でも「目的と手段の明確化」についてお話ししましたが、DX でも同様に「自社の何を変えたいのか」「顧客にどのような価値を提供したいのか」というビジョンの共有が重要です。これを怠ると、IT 化そのものが目的化して現場との乖離が生まれ、プロジェクトが頓挫するリスクが高まります。
さらに、DX の進展に伴って、企業には新たなリスクも生じます。まずはセキュリティリスクです。社内外のネットワーク接続が増えるほどサイバー攻撃の標的が多様化し、ランサムウェアや情報漏えいなどの被害が広がる可能性があります。また、業務プロセスがデジタル化されると、システム障害が発生した際の事業継続(BCP)に大きな影響が出ることもあり得ます。システム停止による取引先や顧客への損害賠償リスクを想定し、契約書や利用規約などを適切に整備しておく必要があります。
加えて、個人情報保護や知的財産権の取り扱いも重要です。例えばクラウドサービス上に顧客データを集約してAI 解析を行う際、本人同意の範囲を超えたデータ利用がないか、利用規約は十分かなど、法的な観点から点検することが求められます。社内で共有される情報についても、従来の紙ベースの管理とは異なるルールが必要です。これらのテーマを「自社に直接関係ない」と捉えてしまうと、予期せぬ法的トラブルに発展する可能性も否定できません。
新たな価値創出のためにDX は不可欠な要素となっていますが、導入前には必ず「目的・必要性」と「潜在リスク」の双方を洗い出し、必要に応じて専門家の助言を受けることをお勧めいたします。
当事務所でも、契約書の見直しやコンプライアンス対応に関してご相談を承っております。新年度を機に、改めてデジタル化とリスクマネジメントについて検討を深めてみてはいかがでしょうか。