MENU
お問合せ

COLUMN

弁護士のコラム

公開日:2025.06.26

小泉大臣による備蓄米放出の法的根拠と妥当性

桑原ブログ

令和7年5月末、米価高騰を受けて小泉進次郎農林水産大臣が政府備蓄米の放出方針を表明しました。政府は順次この備蓄米を小売事業者に売り渡し始めています。通常、国と民間との売買契約は競争入札で行われますが、今回は入札を経ず特定業者と直接契約する随意契約方式が採用されました。一部に競争入札でないのは違法ではないかとの声もあり、政府備蓄米放出の法的根拠と随意契約方式の適法性につき考察します。

政府による米の備蓄と放出は、主要食糧の需給及び価格の安定に関する法律(いわゆる「食糧法」)を根拠とするものです。同法は、米が国民の主食であり、重要な農産物であることに鑑み、生産から消費に至る適正な流通の確保や政府による買入れ・売渡し等の措置によって主要食糧の需給及び価格の安定を図る目的を掲げています(食糧法1条)。米価の安定も法律の目的に含まれており、政府が市場に介入できる枠組みが用意されています。具体的には、食糧法第29 条に「政府は、米穀の備蓄の円滑な運営を図るため、基本指針に即して、国内産米穀の買入れを行い、・・・買受資格者に対し当該米穀の売渡しを行うものとする。」と規定されています。政府が需給逼迫時に備蓄米を放出し市場に供給できる法的権限を持つことが明示されています。
なお、同法第33 条では農林水産大臣が備蓄米を売り渡す際に相手先や時期など必要な条件を付すことができると定められており、条件違反者への罰則も置かれています。こうした条項により、備蓄米が適切に流通し最終消費者に行き渡るよう管理する仕組みが整えられています。なお、今回の小泉大臣による備蓄米放出という緊急的な措置は、食糧法37 条以下の「緊急時における対応」が発令された訳ではないようです。

政府備蓄米の売渡し(国有財産の売却)は、財政法規上は会計法等に従って契約手続きを行う必要があります。会計法では原則として国の契約は競争入札で行うものとされ、備蓄米の売却も本来は入札が原則です(会計法29 条の3 第1 項)。競争入札によって公正さと透明性を担保する仕組みです。しかし今回は例外的に随意契約が採用されました。この点、会計法第29 条の3 第4 項が「契約の性質又は目的が競争を許さない場合、緊急の必要により競争に付することができない場合及び競争に付することが不利と認められる場合」には随意契約によることができると規定しています。要するに「緊急で入札を待てない場合」「入札ではかえって不利な場合」には例外的に随意契約が許される訳です。今回の備蓄米放出はまさにこの例外事由に該当します。
急激な米価上昇という事態は緊急の必要性が認められますし、競争入札がかえって価格高騰を招く一因との指摘もあったため、「競争に付することが不利」との要件にも当てはまりそうです。実際、小泉大臣も現在の米価を「緊急事態に近いもの」と述べており、政府内でも会計法の例外要件を満たすとの判断がなされたものと考えられます。随意契約方式の採用自体は、会計法の定める範囲内で合法と評価できそうです。
もっとも、随意契約だからといって政府が恣意的に安値で売り渡してよいわけではありません。法令上、随意契約の場合でも契約予定価格(売渡価格)は市場の実勢価格や需給状況を考慮して適正に定める義務があります(会計法29 条の6 第1 項、予算決算及び会計令79,80 条参照)。政府も直近の入札結果など実例価格を参考に妥当な売渡価格を設定しており、法律の範囲内で米価引下げ効果を狙った対応となっています。

以上のように、政府による備蓄米の放出にも、その契約手法としての随意契約にも、食糧法や会計法といった法律上根拠が存在しており、国家の運営が法律や政令によって行われていることを再認識させられました。

ご相談から解決まで、
高い満足度をお約束。

ご相談から解決まで、高い満足度をお約束。

最初にご相談いただくときから、問題が解決するまで、依頼者様の高い満足度をお約束します。
そのために、私たちは、専門性・交渉力(強さ)×接遇・対応力(優しさ)の両面を高める努力をしています。