公開日:2026.06.01
裁判のデジタル革命― 民事訴訟IT化
桑原ブログ
令和8年5月21日、改正民事訴訟法が全面施行されました。これまで「裁判」というものは、多くの方にとって「費用がかかる」「時間がかかる」「遠くの裁判所に何度も行かなければならない」という、心理的にも物理的にも高い壁のある手続きでした。今回のデジタル化は、その壁を大きく引き下げる可能性を秘めています。
訴状のオンライン提出に始まり、証拠書類の電子提出、口頭弁論へのウェブ参加、そして訴訟記録のインターネット閲覧まで、裁判所専用システム「mints」を通じて一連の手続きがデジタルで完結できる環境がついに実現しました。弁護士など訴訟代理人については、このオンライン申立てが原則として義務化されている点も重要なポイントです。
ただし、5月21日より前に紙の訴状提出によりスタートした民事訴訟では今回のオンライン提出の対象外ですので、それらの訴訟が終結するまでは、当面の間、紙と電子データそれぞれの手続きが並走していくことになります。
また、民事執行、破産などの倒産手続、家事事件や離婚訴訟などの人事訴訟、刑事事件なども、今回の全面施行の対象外となります。ちなみに、民事執行・倒産手続・家事事件関係手続については、令和10年6月を目標に全面デジタル化が法定されています。刑事訴訟については現時点で具体的なスケジュールは公表されていませんが、民事分野での経験と実績を踏まえて同様の検討が加速していくことは間違いないでしょう。
いわば、日本の司法全体を対象とした「デジタル化の波」が、まず民事訴訟から押し寄せている状況です。
弁護士業界への影響は多岐にわたります。
長年にわたって続いてきた「紙と印鑑」を中心とした事務フローは根本からの見直しを迫られ、電子記録の管理体制やセキュアな通信環境の整備が急務となります。一方で、手続きの効率化によって弁護士が本来業務である法的判断や依頼者との深い対話に集中できる環境が生まれるという前向きな側面もあります。
さらに、今回新たに「法定審理期間訴訟手続」が創設され、当事者双方の合意があればという前提条件付ではありますが、手続開始から最短7か月での判決が可能となる制度も始まりました。長期化しがちな民事紛争の解決において、争点が少なく、事前交渉等で出すべき証拠の整理もなされており、両者ともに早期解決を希望しているような紛争では、画期的な制度の開始と言えます。
デジタル対応力は、今後の事務所経営における重要な競争軸となるでしょう。求められているのは、ITツールの習得にとどまらず、デジタルを前提とした業務フローそのものの再設計です。
こうした変化を「脅威」ではなく「進化の機会」と捉え、地域の皆さまにとって真に頼れる法律家であり続けるべく、当事務所も新制度への対応を着実に進めてまいります。

