公開日:2026.07.01
相続人の一人が行方不明―所有者不明土地・建物管理制度での解決
桑原ブログ
令和5年4月1日から、所有者不明土地・建物管理制度が始まりました。これは、所有者やその所在が分からない土地・建物について、地方裁判所が管理人を選任し、その不動産の管理や処分を可能にする制度です。
この制度は、当初、隣地の空き家が危険で困っている人、所有者不明の土地を買い取りたい人、土地上に所有者不明建物が残っていて土地を活用できない人などにとって、大きな意味を持つ制度として注目されました。つまり、「不動産の外側にいる利害関係人」が、所有者不明のために動かせない不動産を動かす制度、というイメージです。
しかし、実務上はもう少し複雑な問題が出てきます。それは、相続人の一人が行方不明の場合です。
たとえば、被相続人に子がおらず、相続人が配偶者と兄だけだったとします。配偶者の法定相続分は4分の3、兄の法定相続分は4分の1です。ところが、その兄が長年行方不明で、連絡も取れない。遺産は、被相続人が住んでいた不動産だけ。このような場合、配偶者としては、手続や費用の負担が比較的大きくなりがちな不在者財産管理人を選任して遺産分割を進めるより、兄の4分の1の持分を所有者不明持分として扱い、所有者不明土地・建物管理制度等で処理できないか、と考えたくなります。
この発想には一定の理由があります。所有者不明土地・建物管理制度は、土地や建物全体だけでなく、共有持分についても対象になり得るからです。そのため、行方不明の兄の4分の1の持分について、所有者不明持分として管理命令を申し立てる余地はあります。
ただし、ここで重要なのは、この制度が「遺産分割の代わり」にはならないという点です。所有者不明土地・建物管理人は、行方不明相続人の代理人として遺産分割協議をするわけではありません。管理人の役割は、あくまで対象不動産または共有持分の管理・処分に過ぎないからです。なので、建物の老朽化が進んでいる、固定資産税や管理費用の処理が必要である、境界確認や残置物処理が必要である、といった事情があれば、相続人の1人による所有者不明土地・建物管理命令の申立てが有効に機能する場面もあり得るのでしょう。
他方で、相続人たる配偶者が不動産を単独取得したいのであれば、本来検討すべきは、所有者不明土地・建物管理制度ではなく、所在等不明共有者の持分取得制度という別の手続です。もっとも、所在等不明共有者の持分が遺産共有に属する場合には、相続開始から10年経過しないと所在等不明共有者の持分取得制度も使えません。
そのため、相続開始からまだ10年が経過していないケースであれば、結局は、行方不明者たる相続人のために不在者財産管理人を選任した上で、管理人を相手に遺産分割調停・審判を行う必要がある訳です。
所有者不明土地・建物管理制度は、相続人不明の不動産にも応用する余地のある制度ではあります。しかし、相続人の一人が行方不明だからといって、当然にその持分を取得したり、遺産分割を省略したりできる制度ではありません。
今回の法改正で、相続人である行方不明者に対しては不在者財産管理制度と遺産分割手続一択だったのが、状況やニーズに応じて所有者不明土地・建物管理制度を活用するとか、所在等不明共有者の持分取得制度などが利用できるようになった訳ですが、それぞれに要件・効果、一長一短があり、極めて複雑となっています。
大切なのは、目的が「管理」なのか、「売却」なのか、「単独取得」なのか、「遺産分割」なのかを見極めることです。制度が増えた今こそ、事案に応じた手続選択の重要性が高まっています。

