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弁護士のコラム

公開日:2026.08.03

猛暑・酷暑の夏―職場の熱中症対策と労災トラブル

法律コラム

近年の猛暑&酷暑により、職場での熱中症は、建設現場や農作業などの屋外業務だけでなく、工場、倉庫、厨房、配送、介護施設などでも生じています。厚労省の発表によれば、職場での熱中症死傷者(死亡・休業4日以上)は1803人(前年比546人増)で統計開始以来最多とのことです。特に死亡や重い脳障害などの後遺障害が発生しますと、労災保険の問題にとどまらず、会社に対する高額の損害賠償請求に発展することもあります。

令和7年6月1日、改正労働安全衛生規則が施行され、職場の熱中症対策が強化されました。対象となるのは、暑さ指数であるWBGT値(湿度や輻射熱を踏まえた体感温度を考慮した数値)が28度以上、または気温が31度以上の環境で、連続1時間以上または1日4時間を超えて行うことが見込まれる作業です。事業者は、熱中症の自覚症状がある者や、異常に気付いた同僚が報告するための連絡体制を定め、作業者に周知しなければなりません。さらに、作業からの離脱、身体の冷却、医療機関への搬送など、重篤化を防ぐための手順をあらかじめ定める必要があります。

事業者が行うべき対策は、これだけではありません。厚生労働省の「職場における熱中症予防基本対策要綱」では、WBGT値の把握、基準値を超える場合の作業時間短縮、休憩場所の整備、水分・塩分補給、通気性のよい服装、暑さに身体を慣らす「暑熱順化」、健康診断結果や当日の体調の確認などが求められています。熱中症が疑われる者を一人にせず、回復したように見えても急変に備えることも重要です。

近時の重要な裁判例として、福岡高裁令和7年2月18日判決があります。船舶修理会社の37歳の従業員が、サウジアラビアへの海外出張中、浚渫船上で補修作業に従事し、食欲不振、嘔吐、脱水、意識障害を経て死亡した事案です。現場の気温は少なくとも35度程度、推定WBGT値は31度を超えていたとされました。裁判所は、業務中に発症した熱中症と死亡との因果関係を認めたうえ、会社が暑熱ストレスを客観的に評価せず、十分な暑熱順化期間を設けず、食事や体調の確認、作業中止などの措置も不十分であったとして、安全配慮義務違反による損害賠償を認め、遺族に対して4868万円強の支払を命じました。

注目すべきは、冷房付き休憩室や飲料水、スポーツドリンクなどが用意されていたにもかかわらず、会社の責任が認められた点です。飲水や休憩を従業員本人の判断に任せるだけでは足りず、会社側がWBGT値、作業内容、暑さへの慣れ、食事状況、体調変化を把握し、必要に応じて作業を中止させることまで求められる場合があります。

ここで、労災補償と会社の損害賠償責任は区別する必要があります。労災保険は、会社の過失を問わず、熱中症が業務に起因すると認められれば、治療費、休業補償、障害補償年金、遺族補償年金などを法定の基準で給付する制度です。

これに対し、安全配慮義務違反に基づく損害賠償は、会社が予見可能な危険に対して必要な措置を怠ったことが要件となります。その代わり、労災保険では原則として補償されない死亡慰謝料、後遺障害慰謝料や、将来の逸失利益、介護費用なども請求対象となります。労災給付と同じ性質の損害については二重取りを避けるため調整されますが、死亡・重度後遺障害事故では、既に紹介した福岡高裁判例のように、労災給付とは別になお数千万円以上の賠償責任が残ることもあります。

熱中症対策は、「水を飲むよう注意した」という声掛けだけでは不十分です。真夏に気温の高い場所での作業を要するあらゆる仕事は、WBGT値と体調を記録し、作業中止の基準、報告先、冷却方法、搬送先を具体化しておくことが、従業員の生命を守るとともに、会社の法的リスクを防ぐことにつながります。

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