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COLUMN

弁護士のコラム

公開日:2012.09.11

民法を理解しよう|意思表示と契約|意思表示が無効な場合

桑原ブログ

意思表示とは

みなさま、「意思表示」という言葉を聞いたことがありますか?「意志」表示ではなく、「意思」表示。日常用語では、「意志」という漢字を思い浮かべる人が多いでしょうが、「イシヒョウジ」と言えば「意思表示」と漢字表記します。

民法を含むすべての私法の基本中の基本の概念なのですが、一般的には全く知られていない法律用語ではないでしょうか。

それでは、「契約」という言葉は、聞いたことがありますか?これなら、企業社会で一般的に行われている行為です。

ただ、「契約」というと、難しいことをやっている人たちの行為と思う人も多いでしょう。しかし、実際には一般の方々も、日々契約をしています。

AさんがB書店で、代金500円で本を買った。これは、立派な売買契約です(民法555条)。

「契約」を法的に定義づけすると、ある一定の法律効果を発生させるために、複数の当事者間において、「意思表示」が合致することです。

先の売買契約であれば、Aさんが本を手に持って、レジに並んで、B書店の店員さんに本を差し出す行為が、売買契約申込の意思表示であり、B書店の店員さんがこれを受け取って、「代金500円をお支払いください。」と意思を表示する行為が、売買契約承諾の意思表示ということになります。

Aさんの本を買いたいとの意思を表示する行動と、B書店の代金500円を払ってほしいとの意思を表示する発言とが、それぞれ合致することで、売買契約が成立するのです。

すでに、「意思を表示する」という用語を連発していますが、売買契約においては、買いたいと売りたいとの双方の意思表示が合致しているので、売買契約が成立している、ということがお分かりいただけるでしょうか。

意思表示は、B書店の店員さんのように、具体的に発言することによって、表示されることもあります。
しかし、言葉を発さなくても、Aさんのように、本を持ってレジに並び、カウンターで本を店員に差し出すその行為自体によって、表示されることもある訳です。

意思表示と契約

今回は、様々な契約における意思表示を見てみましょう。

契約とは難しく言うと、ある一定の法律効果を発生させるために、複数の当事者間において「意思表示」が合致すること、です。

1 AさんがB書店で、代金500円で本を買った。

これは、売買契約です
Aさんが本を手に持って、レジに並んで、B書店の店員さんに本を差し出す行為が、売買契約申込の意思表示。
B書店の店員さんがこれを受け取って、「代金500円をお支払いください。」と意思を表示する行為が、売買契約承諾の意思表示。

2 子供Cが親Dにお小遣いをねだり、親Dが子供Cに300円を渡した。

これは、贈与契約です
子供Cが親Dにお小遣いをねだる発言が、贈与契約申込の意思表示。
親Dが子供Cに300円を渡す行為が、黙示的な承諾の意思表示。

3 Eさんは、レンタルビデオ店Fで、DVDを借りて、代金600円を支払った。

これは、賃貸借契約です
Eさんがビデオ店Fのレジに並んで、DVDを差し出す行為が、申込の意思表示。
ビデオ店Fの店員が返却期限をEさんに伝えて代金600円と伝える行為が、承諾の意思表示。

4 G君は、友人のH君に、明日返すから2500円貸してと言い、H君はいいよと言って、2500円をG君に渡した。

これは、消費貸借契約です
G君が、友人のH君に明日返すから貸してと発言した行為が申込の意思表示。
H君がいいよと発言した行為が、承諾の意思表示。

5 Iさんは、J銀行のATMを使って、10万円を預金した。

これは、消費寄託契約(預金契約)です。
J銀行がATMという機械を用意して、Iさんがいつでもカードを使って預金できる状態にしていることが、包括的な承諾の意思表示。
IさんがATMに並んで10万円を預金する行為が申込の意思表示。

6 K君は、L君の手にお金をつかませて、パンを買いに行って来いと命令し、L君はしぶしぶ「ウン」と言った。

これは、準委任契約です
K君が命令した行為が申込の意思表示。
L君が「ウン」と言ったのが、承諾の意思表示。

そのほかにも、切符を買って改札を通って電車に乗るとか(運送契約)、子供がお手伝いをしたら100円もらえると約束してお手伝いをするとか(雇用契約・労働契約)、宅配で荷物を配達してもらうとか(配送契約)、身近には契約がいっぱいあふれています。

幼いころから日々契約を行い続けてきたということが、再認識できたのではないでしょうか。

契約を打ち消す意思表示

契約とは意思表示の合致である、と述べました。

売買契約の場合・・・

買主が、これを売ってくれと本を差し出す行為が、本購入の申込の意思表示。
売主が、本を受け取って、代金525円です、と代金を要求する発言が、本販売の承諾の意思表示。

これらは、契約を成立させる意思表示です。

では、契約を打ち消す方向での意思表示には、どんなものがあるでしょうか。

例えば、未成年者や成年被後見人は、日常的な取引以外については、単独で契約を行うことができないとされていますが、この人が何らかの契約をしてしまった場合(通常は、何らかの消費者被害に巻き込まれた場合が多いでしょう)。
未成年者の親や成年後見人は、当該契約を、後から取り消すことができます(民法5条2項、9条)。

これが、取消の意思表示です。

取消が有効に行われると、当該意思表示は初めからなかったことになり(民法121条)、当該契約は初めからなかったことになります。
この取消権には、他には、詐欺・強迫の取消権(民法96条)、消費者契約法第4条における取消権などがあります。

また、契約は有効に成立したが、一方当事者が契約で定められた債務を履行しない場合、他方当事者は債務不履行解除をすることができます(民法541条、543条)。
賃貸借契約で賃料を支払わない場合とか、労働契約で働きに来なくなった場合など。
これが、解除の意思表示です。

解除が有効に行われると、双方ともに、当該契約に基づく債務の履行義務を免れることになります(民法545条)。

取消と解除の違い

  • 取消の意思表示:意思表示を始めからなかったことにする=契約が初めから成立していなかったことにする
  • 解除の意思表示:意思表示が合致して成立した契約の、拘束力をなかったことにする

いずれも、一旦行った契約を成立させる意思表示を,打ち消す法的効果を持つ意思表示です。

契約以外の意思表示

これまで、契約を成立させる各種意思表示と、契約を取り消す意思表示、契約を解除する意思表示を見てました。

では、契約にかかわる意思表示、以外の意思表示についても見てみましょう。

例えば、時効援用の意思表示

所有の意思をもって10年または20年、ある物を占有し続ければ、その者はその物を時効取得できる。が「時効を援用する」との意思表示を行わない限りは、取得時効は成立しません。時効援用の意思表示によって、取得時効が完成し、その者に所有権を取得させるという法律効果が発生するのです。

例えば、友人が家に遊びに来たときに、忘れて行った記念メダル。家の大掃除で20年ぶりに見つけたが、いま換金したらものすごく高額で換金できる模様です。法的には返さなければいけないのでしょうが、友人も20年間忘れているようなメダルなので、返さなくて済むならこのまま自分の物として換金したい…このような場合、友人に対して取得時効を援用することで、そのメダルを自分の物にすることができるわけです。

また、放棄(免除)の意思表示

例えば、友人に電車賃300円を貸したとします。駅で切符を買う時点では、貸したのだが、そのうちいろいろと世話になったことを思い出したので、300円は返さなくていいよ、と言う場合。
これも、債権債務関係を消滅させる法律効果が発生するので、意思表示の一種です。

また、婚姻届離婚届
これも、婚姻成立または離婚成立という法的効果を発生させる意思表示です。

さらには、遺言書
遺言書を記載した場合、遺言者が死亡することによって、その遺言書記載の法律効果が発生します。遺言により、遺産をもらう人間が遺言書の存在を知らなくても、遺言書記載のとおりの法律効果が発生するので、遺言書自体は契約ではありません。

このように、日常生活において、みなさんはたくさんの意思表示を行い、たくさんの意思表示に囲まれながら、暮らしています。

意思表示が無効な場合

例えば、ドラマのワンシーンで、本屋のレジに客が並んで本を買う、というシーンがあったとしましょう。

お客役の人がレジに並んでこれを売ってくれと申し込み、本屋役の人が代金525円ですと承諾した場合、外形的には申込みと承諾が合致しているので、売買契約が成立している、ようにみえます。

しかし、ドラマのセリフで行動し、言っているだけなので、当事者双方が売買契約を真実成立させる意思がないことを分かっています。
このような意思表示は、通謀虚偽表示により無効となります(民法94条)。

また、自動車販売会社の人と一緒に飲んでいる人が、酔っ払って泥酔してしまい、しらふなら絶対買うとは言わないのに「高級車を買ってやる」と豪語したので、販売会社の人がここぞとばかりに自動車売買契約書を差し出してサインさせた場合、形式的には売買契約が成立しています。

しかし、酔っ払って泥酔したときの意思表示は、正常な判断能力が欠けた状態での意思表示なので、法律上無効となります(意思無能力による無効・民法に規定はありませんが、未成年取消・成年後見取消などの規定から、この理論が存在します)。
※ちなみに、酔っ払って行った意思表示は何でも無効となる訳ではなく、病的な泥酔状態に至らないと、意思無能力による無効は成り立ちにくいので、注意が必要です。

このほかにも、意思表示が公序良俗に反するとき(民法90条)、意思表示が錯誤に基づくとき(民法95条)、不能条件を付したとき(民法133条)などに、意思表示は無効となります。

まとめ

「意思表示」が民法の基本です。

そして、民法の中でも最重要概念ともいえるのが、「契約」です。
契約とは、ある一定の法律効果を発生させるために、複数の当事者間において、「意思表示」が合致することです。

売買契約、賃貸借契約、雇用契約、請負契約、和解契約など、民法の契約法のところに既定のある契約のみならず、債権譲渡契約、抵当権設定契約、保険契約、運送契約など、必ずしも民法の契約法には出てこない契約もたくさん存在します。

これら契約の成立要件となる各当事者の行為が、意思表示なのです。

そして、意思表示自体がそもそも無効であったり、意思表示が取消されたりすると、その意思表示は初めからなかったわけなので、契約の成立要件の一部または全部が欠ける結果、契約は成立していないことになります。

意思表示自体には何の問題もなく、契約が成立した後に、契約を解消する意思表示である解除や、契約により発生した債権債務関係を消滅させる意思表示である免除消滅時効の援用などもあります。

ちなみに、取消・解除・免除・消滅時効などは、その意思表示をすれば直ちにその法律効果が発生するので、単独行為と言います。
遺言書なども、単独行為の典型ですね。

  • 複数当事者間で意思表示の合致によって法律効果が発生する契約
  • 1人の一方的意思表示によって法律効果が発生する単独行為

「意思表示」という概念を、ご理解いただけたでしょうか。

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