公開日:2022.12.14
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BCP(事業継続計画)は整っていますか?
【本記事の監修】 弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋 (代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。
目次CONTENTS
BCP(事業継続計画)とは、企業が緊急事態で損害を最小限に食い止め、ビジネスを早く再生させるため、平時に行うべき活動や緊急時における事業継続の方法・手段を決めておく計画です。とりわけ中小企業は、非常時に有効な手が打てなければ廃業のおそれさえあります。事例や対策について福岡・佐賀の弁護士法人 桑原法律事務所の弁護士が解説します。
BCPとは
BCPとは「Business Continuity Plan(事業継続計画)」の略称です。
中小企業庁のホームページなどにおいても、その策定が推奨されています。
帝国データバンクが2022年、実施した「事業継続計画(BCP)に対する企業の意識調査」によると、BCPを「策定している」企業は17.7%(前年比0.1ポイント増)と前年からほぼ横ばいでした。
企業規模別でみると、大企業は33.7%(同1.7ポイント増)と上昇しましたが、中小企業は14.7%と横ばいでした。(調査対象2万5,141社、有効回答数1万1,605社<回答率46.2%>)。
BCPを「策定していない」企業は42.1%でした。BCPを「策定していない」理由としては、「策定に必要なスキル・ノウハウがない」(42.7%)、「策定する人材を確保できない」(31.1%)などが上位にあがっています。
BCP策定のメリットとは
BCPを策定し運用する目的は、緊急時においても事業を継続できるように準備しておくことで、顧客からの信用、従業員の雇用、地域経済の活力の3つを守ろうとするものです。
BCP策定のメリットは下記などになります。
- 災害に強くなる:緊急時の対応力を鍛え、事業が早く復旧できます。緊急時にも事業が継続でき、顧客流出を防ぐことができます。
- 企業価値が向上する:株主、取引先などステークホルダーのみならず、消費者や行政からも「災害時の対策ができている企業」と評価され、取引の拡大や企業価値の向上につながります。
- 中長期の経営戦略を練る機会になる:事業継続の対策を検討することで、事業のみならずプロセス、資材などの優先順位を明らかにでき、経営戦略そのものとなります。
- 企業の社会的責任を果たす:経営者としての姿勢を示すことで、従業員の安心感を生みます。早期に業務を回復すれば地域の雇用を確保することにつながり、企業の社会的な責任を果たすことができます。
BCP策定の一歩:優先順位を判断
BCPの策定・運用にあたっては、まずBCPの基本方針の立案と運用体制を確立し、日常的に策定・運用のサイクルを回すことがポイントとなります。
企業活動に潜在するリスクは様々です。自分の会社が下記のような状況に陥った場合、通常通りに業務を継続できるかどうか、考えてみるとよいでしょう。
- コロナ禍など感染症・疾病などの流行:従業員の大半が感染・り患し、1週間以上出社できなくなった場合
- 地震・災害によるビルの火災や倒壊リスク:大規模地震の発生により、事務所にあるパソコンや、工場にある生産設備が損壊して使用できなくなった場合
- 大雨災害などによる情報システム破壊等のリスク:事務所の書類やパソコンが壊れ、使用できなくなった場合
①中核事業の特定
自分の会社の中核事業を特定します。財務、顧客、社会的要求などを考慮して、どれから優先するのか検討しましょう。
②重要業務の把握
受注、在庫管理といった、中核事業に付随する重要な業務を把握します。また、中核事業を復旧するまでに必要と思われる目標復旧時間も決めておきます。
③中核事業が受ける被害を評価
中核事業が災害により、どれぐらい影響を受けるのかを評価します。そのためには、中核事業の継続に必要な資源(人、物、金、情報など)が、どのような災害によって、どの程度の影響を受け、どの程度の支障をきたすのかを、きちんと把握する必要があります。
④財務状況を分析する
会社が被災した場合、建物・設備の復旧費用や事業中断による損失を概算します。災害が起きると、中小企業の多くは復旧のための借金が必要になるものと考えられます。
BCPを実行することによって、政府系の金融機関などからの貸付・保証制度を効果的に利用できるでしょう。
BCPの準備
緊急や災害時に会社の中核事業を継続・復旧させるための準備や事前対策を検討します。
① 中核事業継続のための代替策を検討
中核となる事業に不可欠な資源が打撃を受けた場合、以下のような資源の代替をどのように確保するかについて、事前に把握する必要があります。
- 連絡拠点となる場所
- 重要な施設・設備
- 臨時従業員
- 資金
- 通信・各種インフラ(電力、ガス、水道)
- 情報
② 事前対策を検討・実施する
分析をもとに、目標復旧時間内に事業を復旧させるため、事前にできる対策を検討します。
ソフトウェア対策
- 避難計画の作成
- 従業員連絡リストを作成
- 防災に関する社内教育
- ハザードマップを調査
ハードウェア対策
- 施設の耐震化
- 棚を壁に固定
- 防災用具の購入
BCP策定:発動の基準と文書化
BCP発動基準とBCP発動時の体制を明確にします。BCPを発動するかどうかは、中核事業に影響を与える可能性のある災害とその規模を検討して基準を定めます。
BCPを発動する基準を定めたら、だれがどのように動くのか、対応体制を明確にします。
緊急事態では、経営者のリーダーシップが重要です。BCPを発動してから事業復旧するまで、主として以下の体制を想定しましょう。
・復旧対応:施設や設備の復旧等、社内における復旧対応
・外部対応:取引先や組合などとの連絡・調整
・財務管理:事業復旧のための資金調達や各種決済
・後方支援:従業員の参集や食料手配、負傷した従業員の対応
文書化にあたって、緊急事態発生時の事業継続に必要な下記などの情報を整理します。
- BCP(事業継続計画)の発動フロー
- 事業継続に必要な各種情報
中小企業庁のサイトに様式があるので参考にするのもよいでしょう。
BCPの定着、維持
BCPを策定すれば終わりではなく、緊急事態発生時にそれを有効に活用できなければ意味がありません。
緊急事態でBCPが本当に役立つためには、災害時にBCPにもとづき、復旧にかかわる従業員が、BCP運用に真剣に取り組む必要があります。
BCPに関する訓練や教育をこまめに行い、BCP運用に対する経営者の姿勢をみせ、会社に定着させることが重要になります。
BCPは継続的な活動です。「つくったら終わり」ではありません。訓練や教育、見直しは定期的に実施すべきです。
社会状況や自社の状況にあわせ、見直すべき改善点を洗い出し、 BCPのアップデートをしましょう。
まとめ:危機管理の核にBCP策定を
コロナ禍による企業への影響を受けてか、弁護士として企業法務に携わる中での肌感覚としても、BCPに注目を向ける企業が増加していることを感じています。
また、BCPを策定していたことで、コロナ禍にあっても企業として速やかに事業の継続ができたという企業もありました。
万が一の事態に備えるリスクマネジメントの中核として、まだBCP策定を進めていない場合には、その策定をおすすめいたします。ぜひ弁護士に相談ください。
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