公開日:2022.02.07
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改正育児・介護休業法 2022 | パパ育休、中小企業がすべき対策とは?
【本記事の監修】 弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋 (代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。
目次CONTENTS
「産後パパ育休」新設が目玉となる改正育児・介護休業法が2022年4月から、段階的に施行されます。中小企業も就業規則の変更が求められます。とるべき対応や注意点について、企業法務に精通する福岡・佐賀の弁護士法人 桑原法律事務所の弁護士が解説します。
改正育児・介護休業法とは?
改正育児・介護休業法は男女とも子育てと仕事が両立できるよう、事業主に仕組みと環境づくりを求めています。
中小企業がとるべき対策
中小企業がすべき主な対策は5点です。(カッコ内は施行の時期)
- 子が生まれた時に育休とは別に取れる「産後パパ育休」制度の導入(2022年10月~)
- 育休を取りやすい環境づくり(2022年4月~)
- 妊娠・出産を申し出た人(本人、配偶者)に育休・産後パパ育休について個別に周知、意向の確認(2022年4月~)
- 育休の分割OKに(2022年10月~)
- 有期雇用の人が育休・介護休を取る要件の緩和(2022年4月~)
改正の背景 | 育休取得率は男性12%、女性81%
厚労省の「雇用均等基本調査」によると2020年度、育休の取得率は女性が81.6%でした。男性は12.65%と初めて1割を超えましたが、まだ大きな男女差があります。
政府は「男性の取得率30%」を2025年までに実現することを目標にしています。
育休の期間でみても、女性は9割近くが「6か月以上」なのに対し、男性は「5日」未満が36.3%、「1か月未満」が取得の8割を占めます。
男性の多くは子の出生直後に育休を取っています。産後の妻をケアしたい、育児に最初からかかわりたいといった思いからとみられます。
「育休を取りたいが取らなかった」男性の割合は約4割とされています。
理由として「収入を減らしたくなかった」「職場が取得しづらい雰囲気だった」などを挙げる声があり、使いやすい仕組みと取りやすい環境づくりが求められます。
産後パパ育休とは:育休と別に最大4週間
事業主は、改正を受け、就業規則を見直す必要があります。「産後パパ育休」制度の概要は下記になります。
- 育休とは別に取得可能
- 生後8週間以内に、最大4週間まで取得可能
- 分割して2回取得可能(初めにまとめて申し出ることが必要)
- 取得したい場合は原則として、2週間前までに申し出
通常の育休制度は原則、1か月前に取得を申し出る必要がありますが、「産後パパ育休」は2週間前までに申し出ることとされています。
また、2回に分割して取得することが可能です。たとえば出生や退院時に1回目、里帰り出産した母子を迎えるために2回目、といった取り方もできます。ただし、2回ともまとめて申し出る必要があります。
育休を取りやすい環境づくり
育休と「産後パパ育休」について、下記4つのうち、少なくとも1つの実施が義務付けられます。2022年4月から(産後パパ育休については10月から)の施行です。
- 研修の実施
- 相談窓口の整備
- 自社の取得事例の紹介
- 自社の方針を周知
1の「研修」は少なくとも管理職は行ってください。厚労省のサイトに研修資料もあります。
2の「相談窓口」は例えば担当者を決め、その人を相談窓口として周知するなどの方法で足ります。
3と4の取得事例や自社方針は書類やイントラネットに掲載し、従業員が閲覧できるようにします。
中小企業にとって導入しやすいのは負担の少ない②のように思いますが、相談窓口を設置するのみで取得が促進されることになるのかは疑問です。
本気で取得を促進するのであれば、複数の措置を同時に講じるのがいいでしょう。
対象者に制度を個別に周知、意向を確認
本人か配偶者の妊娠・出産を申し出た従業員に対して、事業主は育休についてきちんと説明し、取るかどうかの確認を個別にしなければなりません。2022年4月から(産後パパ育休については10月から)施行されます。
対象者に説明する内容は下記の4点です。
- 育休・産後パパ育休の制度
- 育休・産後パパ育休の申し出先
- 育児休業給付に関すること
- 労働者が育休期間について負担すべき社会保険料の取り扱い
説明や確認の方法は、面談(オンライン面談)か書類によります。対象者が希望すればメールかファクスでもOKです。
育休を分けて取得OKに
育休の期間は原則、子どもが1歳までです。保育園に入れない場合などは延長でき、最長2歳までと定められています。
期間はいままでと変わりありませんが、2022年10月からは2回に分けて取得できます。
1歳以降の延長は1歳か1歳半時に開始する日が限られていましたが、2歳までならいつでもOKになります。
有期雇用の人が育休・介護休を取る要件の緩和
契約社員やパートなど、有期雇用の人が育休・介護休を取るには「引き続き雇用された期間が1年以上」との条件つきでしたが、2022年4月から期間にかかわらず認められるようになります。
「引き続き雇用された期間」とは、「切れ目なく連続して雇用されている」との意味です。
就業規則に「1年以上」といった定めがあれば、2022年4月までに削除しなければなりません。
ただし「引き続き雇用された期間が1年未満」の人は、労使協定の締結により除外できます。
これから育児休暇・介護休暇の間口がより広がりますので、使用者側ではそれらも踏まえた上で、人員配置の見直しなどを必要に応じて検討されるべきでしょう。
対策しないとどうなる?
育児・介護休業法に違反している場合、行政からの勧告に従わなければ過料の処分を受けることはあるようです。
改正法に沿った制度設計ができていないと、採用や従業員の満足度などで他社に遅れをとり、よい人材が確保できない可能性はありえるでしょう。
課題は「制度はあるが実態なし」
制度は作ったものの、実際に育休の取得率が上がらないと課題となりえます。
大企業は取得率の公表義務がありますが、中小企業には義務はありません。制度を作ったが取得率は上がらなかったという会社はいくらでも出てきそうです。
日本にある382万企業のうち、99.7%が中小企業(2016年経済センサス活動調査)です。中小企業での取得率向上が欠かせません。
国は根気よく制度の内容や趣旨を発信し続けていく必要があるでしょう。
「就業規則を見直したい」といった相談があれば、ぜひ弁護士にご相談ください。
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