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公開日:2022.04.20 最終更新日:2022.09.22

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内部通報制度とは | 公益通報者保護法が改正 | 中小企業がすべき対策

目次CONTENTS

内部告発は「内部通報」「公益通報」とも呼ばれ、企業の不正が見つかる端緒になっています。より告発しやすいよう「公益通報者保護法」が改正され、2022年6月に施行されました。

「内部通報」というとネガティブなイメージですが、会社の不正を見つけやすくなり、コンプライアンス経営につながります。制度について、福岡・佐賀の弁護士法人 桑原法律事務所の弁護士が解説します。

内部通報制度

Q. 内部通報制度とは何ですか?

A. 職場の不正に気づいた従業員が通報できる専用窓口をもうけ、企業側が問題を早期発見し、調査・解決するための仕組みです。

消費者庁が2016年に行った調査では、内部通報制度がある事業者は46.3%、「検討中」は 13.2%、「導入する予定なし」は 39.2%でした(回答3,471事業者)。

制度のある企業で不正が見つかる端緒としては、「内部通報(通報窓口や管理職などへの通報)」が最も多く(58.8%)、次いで「内部監査」(37.6%)「職制ルート(上司による業務チェックや従業員からの業務報告等)」(31.5%)の順となっています。

制度の意義として、消費者庁のガイドラインでは下記などを示しています。

  • 組織の自浄作用の向上
  • コンプライアンス経営の推進
  • 消費者や取引先、従業員、株主などステークホルダーからの信頼獲得
  • 企業価値の向上や事業者の持続的発展

企業の社会的責任を果たし、社会経済全体の利益を確保する上でも重要な意義があるとしています。

内部通報の事例:「人事上の不利益」発言、有罪

内部通報をめぐるパワハラ事件の裁判例をご紹介します。

内規違反を内部通報した福岡県内の郵便局長7人が、「郵便局長でつくる連絡会役員からパワハラを受けた」として役員3人を相手取り、損害賠償を求めた裁判がありました。

福岡地裁は2021年、3人に約200万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。

判決によると原告らは2018年、被告のうちの1人の息子の内規違反について、日本郵便本社の内部通報窓口に通報しました。

本社からの連絡で通報を知った役員は2019年1月、原告の1人に対して「(通報者を)絶対つぶす」などと発言。ほかの被告も原告に役職を辞任するよう求めるなどしました。

判決では「人事上の不利益があることを示しつつ、通報者であることを認めさせようとした」として違法性を認めました。

役員は「内部通報を認めるよう強要した」として強要未遂罪で在宅起訴され、有罪判決が確定しています。

上記の裁判のように、通報した人が不利益を受ける事例はあとを絶ちません。2022年6月の改正では、通報者を守るためのルールを強化しています。

2022年の改正公益通報者保護法のポイント

面談している社員

不正に気づき、勇気を出して通報した人が不利な状況に陥るようなことがあれば、「黙っていたほうがいい」となり、会社の不正リスクを把握することはいっそう難しくなります。2022年の改正では、通報者の保護がより強化されます。

今回の改正のポイントは、以下のとおりです。

  • 事業者の体制整備の義務化
    • 事業者内の「通報窓口の設置」
    • 通報者の「不利益な取扱いの禁止」 など
  • 事業者の内部通報担当者に守秘義務
    • 違反した場合、30万円以下の罰金(刑事罰)
  • 「公益通報者」として保護される範囲の拡大
  • 保護される「通報対象事実」の範囲の拡大

消費者庁「改正公益通報者保護法の広報用チラシ」より

以下では、主な改正点を解説いたします。

主な改正1:通報窓口の設置義務

常時使用する労働者(パートタイマーを含む)が301人以上の企業には、公益通報に適切に対応する「体制を整備する義務」とその対応に「従事する者を定める義務」が課されます。

つまり、企業は通報窓口を設置し、内部情報を受け付けて調査し、その是正等に対応する担当者(公益通報対応業務従事者)を定めなければなりません。

通報窓口としては、総務部や法務部などが想定されますが、親会社や顧問弁護士などの外部に設置することもできます。

なお、常時使用する労働者の数が300人以下の事業者については、努力義務とされています。

主な改正2:通報窓口担当者に守秘義務

通報した人が誰なのかを特定しようとする「通報者探し」につながる行為も、原則禁止になります。通報窓口の担当者(担当だった人も含む)は、通報者が誰であるかを特定させる事項(氏名や社員番号など)について守秘義務を負います。

この守秘義務に違反すると、30万円以下の罰金が課されます。

主な改正3:公益通報者として保護される対象が拡大

通報者として保護される人の対象範囲が拡大されました。労働者や派遣労働者に加え、退職者(1年以内に退職した労働者、1年以内に終了した派遣労働者など)や役員も保護の対象に含まれるようになりました。

通報を理由とした解雇・減給・降格などの不利益な取扱いの禁止に加え、派遣契約の解除や通報を理由とした損害賠償請求も禁止されました。

公益通報として保護される「通報対象事実」についての範囲も広がりました。これまでは刑事罰の対象となる事実が対象でしたが、行政罰(過料など)の理由となる事実も対象となりました。

主な改正4:公益通報者の保護要件の緩和

公益通報者の保護

公益通報者が、通報を理由として企業から不当な扱いを受けた場合に、公益通報者保護法に基づく保護を受けるための要件が緩和されました。

行政機関に対する通報では、これまでは「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由(真実相当性)」がある場合にのみ、保護の対象とされていました。しかし、「相当の理由」と判断・証明するのは容易ではありません。

改正法では、「通報の対象事実が生じ」ているか「まさに生じようとしている」と考えられ、かつ「通報者の氏名・住所」や「対象事実の内容」などを書面で提出すれば、真実相当性まで至らない場合でも保護の対象となるようにしました。

そのほか、報道機関などに対する通報では、以下の保護要件が追加されました。

  • 公益通報をすれば、企業が通報者について知り得た事項を、正当な理由なく漏らすと信ずるに足りる相当の理由がある場合
  • 個人の生命もしくは身体に対する危害または個人の財産に対する損害(回復できないまたは著しく多数の個人における多額の損害で、通報対象事実を直接の原因とするもの)が発生し、または発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

中小企業のとるべき対策

会社員

従業員300人以下の中小企業では、内部通報に適切に対応するために必要な体制の整備等は「努力義務」とされていますが、不正を防いでコンプライアンス経営を推進する狙いから、体制を整える企業も増えています。

もし社内に通報窓口がなければ、行政やマスコミが通報先として考えられます。社名が明らかになったり報道されたりすれば、企業イメージの低下など経営にも影響しかねません。中小企業でも、それぞれの事情に即した制度を整備しておくことをお勧めします。

内部通報制度についてのお悩みがあれば、当事務所の弁護士にお気軽にご相談ください。

 

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※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。