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公開日:2022.07.04 最終更新日:2022.10.17

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未払い残業代、請求の時効は | 退職後に請求できる?

目次CONTENTS

未払いの残業代をさかのぼって請求できる期間(時効)は2020年、「当面3年」に延長されました。退職してからも残業代は請求できるのでしょうか。企業法務に精通する福岡・佐賀の弁護士法人 桑原法律事務所の弁護士が解説します。

未払い残業代請求の時効とは|弁護士が解説

時効は「当分の間」3年

2020年に改正された労働基準法では、賃金が請求できる期限は「原則5年、当分の間3年」となっています。同年施行された改正民法で、債権をさかのぼって請求できる期間が「原則5年」に統一されたのに伴って見直されました。

厚生労働省の審議会において、労働者側が民法と同じ「5年」を求めた一方、使用者側は改正前からの「2年」の維持を主張し、妥協案として労基法も原則5年としつつ「当面は3年」とした経緯があります。

請求権は、2020年4月1日に支給される賃金から適用となりました。そのため、2022年4月から、実際に過去2年を超えて未払い賃金を請求できるようになりました。

たとえば2019年4月~2020年4月の間に、1年1か月の未払い賃金があった場合、2019年4月~2020年3月までの未払い分はすでに時効ですが、2020年4月分は2023年3月末まで請求する権利があります。

賃金時効2年→3年 2020年4月から

残業代請求を迷っているうちに、3年より前の請求権は、どんどん消滅してしまいます。

1日8時間以上または週40時間以上働いた方であれば、原則として残業代が請求できます。雇用者は少なくとも1.25倍の賃金を、残業代として支払う必要があります。

残業代を支払って欲しいと思ったら、時効にならないよう早めに弁護士に依頼し、時効を止める手続きをしましょう。

Q. 残業代の時効が始まるのはいつですか?

A. 残業代未払いの時効が始まるのは、賃金が支払われる日の翌日です。

時効といっても民事、刑事の時効があり、さらに民事には「消滅時効」と「取得時効」、刑事には「刑の時効」と「公訴時効」があります。賃金の未払いの時効は、民事上、権利が一定期間に行使されない場合に、その権利を消滅させる「消滅時効」に当たります。

民法の定めでは、消滅時効の起算点は「債権者が権利を行使できる時」(客観的起算点)または「債権者が権利を行使できることを知った時」(主観的起算点)としています。

法律上は給料日が時効スタートとなりますが、民法には時効の期間に初日を含めない「初日不算入の原則」があり、翌日からとなります。たとえば月末締めで、給料は翌月15日払いの場合、2020年3月中の残業代は、2020年4月16日から時効がスタートします。

2020年4月以降の給与から「当面3年」の時効が適用されますので、2023年4月15日まで請求ができ、2023年4月16日には時効が成立します。

時効の中断手続きとは

未払い残業代の解決を弁護士に依頼すると、まず会社側に配達証明付き内容証明郵便を送付して「催告(さいこく)」するのが一般的です。

催告とは、相手に一定の行為を要求することです。残業代未払いでは「●●年〇月~●●年△月の未払い賃金を請求します」との旨を催告すると、仮に時効を中断できます。催告は時効を6か月猶予します。

猶予させてから、弁護士が相手方の会社と示談交渉をします。話し合いで解決せず長期化するようであれば、下記などの裁判手続きに移行するのが一般的です。その場合、時効は完全に中断します。

  • 労働審判を申し立てる
  • 裁判を起こす
  • 仮差押えを申し立てる

なお、下記のようなケースでは消滅時効が適用にならず、残業代が支払われる可能性があります。

  • 時効の期間を過ぎてから雇用側が支払いの義務を認める
  • 雇用側が時効を利用するという意思表示をしない

Q. パワハラで10年勤めた会社を辞めたいです。退職後に残業代を請求できますか?

パワハラで会社を辞めたい。退職後に残業代を請求できますか?

A.
会社を退職した後にも残業代の請求は可能です。

前述した通り、2020年4月以降の賃金に対する時効は3年、それ以前は2年です。2022年3月末までに退社していたら、請求できる残業代は過去2年分だったということになります。

2023年3月まで勤めれば、過去3年分の残業代が請求できます。単純計算で、いままでより1.5倍の残業代が支払われる可能性があります。

当事務所の解決事例

当事務所でも、パワハラで退職した男性の弁護活動を行いました。パワハラについては客観的な資料がありませんでしたが、残業代については過去2年間分の就業時間を踏まえて計算しました。

会社と交渉を行いましたが、折り合いがつかなかったため、裁判所に労働審判を申し立てました。その結果、「残業代+αの金額」として120万円以上を獲得し、調停が成立しました。

Q. 未払い残業代を請求したいが、負ける原因は?

A. 「負ける」場合とは、請求した残業代がすべて(または大部分が)認められず、支払われないケースなどが考えられます。原因としては、下記などが考えられます。

証拠が足りない

どれぐらい残業していたか、請求する側が証拠をそろえて証明しなければなりません。

雇用側がタイムカードや勤怠管理システムなどで管理していれば、裁判で雇用側に提出を求めることができます。雇用側にそうしたデータがない場合、証拠集めが問題となりえます。

時効が成立している

前述した通り、2020年3月末までの残業代については時効が2年ですので、2022年3月末より前に時効が成立しています。

管理監督者だった

労働基準法で「管理監督者」とは、労働条件など経営者と一体的な立場にある者で、労働基準法で定められた労働時間や休日の制限を受けません。このため、残業代や休日労働に関する割増賃金の請求は認められないとされています。

ただし、管理職がすべて「管理監督者」に該当するわけではありません。役職ではなく職務内容、責任などの実態によって判断されます。

固定残業代の範囲内で残業していた

固定残業代制とは実際に残業するかどうかにかかわらず、一定額の残業代を固定で支払う仕組みです。

固定残業代が支給されていても、固定残業代が想定する時間を超えて働いた場合など、残業代を請求できることもあります。

残業代の請求、失敗しないために

上記を踏まえ、残業代の請求を失敗させないために、証拠集めなどの対策をしっかり行いましょう。

残業代をきちんと計算するための証拠として、就業規則、賃金規程、タイムカードといった資料が必要です。それ以外にも勤務の状況を示す下記のようなものも、証拠となりえます。

  • 業務日報
  • シフト表
  • メールの送信履歴
  • 通話記録
  • パソコンのログ履歴
  • システムへのログイン・ログアウト時間
  • デジタルタコグラフ
  • GPS
  • 労働時間や業務内容についての詳細なメモや日記

退職して手元にない場合は、会社に対して資料を開示するよう請求します。

残業代の証拠がなくてもあきらめないで弁護士に相談を

残業代についての認識は、会社もご自身も法的には正しく理解していないケースがあります。

「管理職だから残業代は出ない」「固定残業代をもらっている」「年俸制なので残業代は出ない」などと思い込んで残業代をあきらめる前に、法律の専門家である弁護士にご相談ください。

 

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※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。