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法律コラム

公開日:2022.08.01

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侮辱罪厳罰化 | 懲役刑や罰金刑が追加 | ネット中傷に対応 | 事例を解説

目次CONTENTS

インターネット上の誹ぼう・中傷などに対応するため、侮辱(ぶじょく)罪を厳罰化する改正刑法が2022年7月、施行されました。法定刑の上限が引き上げられ「1年以下の懲役・禁錮」や「30万円以下の罰金」などが加わりました。桑原法律事務所の弁護士が解説します。

侮辱罪に懲役刑導入|ネット中傷に対応|改正刑法が施行|事例を解説

侮辱罪とは:公然と人を侮辱

侮辱罪とは、わかりやすくいうと「事実を示さずに、不特定または多数の人の目に触れる環境で他者を侮辱する」犯罪をさします。

たとえば、ある人に対して「バカ」「ブス」などといった言葉をSNSなどに書くと、侮辱罪に当たる可能性があります。

侮辱罪は、刑法231条に定められています。

事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。(刑法231条)

侮辱罪の例

侮辱罪の事例としては下記のようなケースです。

  • SNSに「この子○○(地名)一番安い子!!お客様すぐホテル行ける!!最低!!」などと投稿し、当該SNSでの被害者のプロフィール画面を撮影した画像を掲載した(科料9900円)
  • SNSに「人間性を疑います。1人のスタッフを仲間外れにし、みんなでいじめる。1人のスタッフの愚痴を他院のスタッフに愚痴を言いまくる社長。1人のスタッフの話も聞けない社長」などと掲載(科料9000円)
  • インターネット上の掲示板の「○○(被害者経営店舗名)って?」と題するスレッドに「○○(被害者名)は自己中でワガママキチガイ」「いや違う○○(被害者名)は変質者じゃけ!」などと掲載(科料9900円)
  • インターネットサイトの被害法人に関する口コミ掲示板に「詐欺不動産」「対応が最悪の不動産屋。頭の悪い詐欺師みたいな人。」などと掲載(科料9000円)
  • 路上で被害者に対し、大声で「くそばばあが。死ね。」などと言った(科料9000円)
  • 集合住宅で計3名に対し、被害者について「今、ほら、ちまたで流行りの発達障害。だから人とのコミュニケーションがちょっと出来ない。」などと言った(科料9,000円)

侮辱罪の事例集「2020年に侮辱罪のみにより第一審判決・略式命令のあった事例」より)

侮辱罪の厳罰化とは

侮辱罪の厳罰化|法定刑の引き上げ

侮辱罪は、2022年7月に施行された改正刑法により、法定刑が引き上げられました。

改正前と改正後の刑罰の上限は下記のとおりです。

  • (改正前)
    法定刑:30日未満の拘留または1万円未満の科料
    公訴時効:1年
  • (改正後)
    法定刑:1年以下の懲役もしくは禁錮もしくは30万円以下の罰金または拘留もしくは科料
    公訴時効:3年に延長

「拘留」とは、刑務所・拘置所・留置場といった刑事施設に1日以上30日未満、拘置される刑罰をいいます。「科料」とは、1000円以上1万円未満の金銭納付を命じる制裁の一つです。改正前の侮辱罪は、刑法が定める罪では最も軽い罪でした。

なお、今回の改正では侮辱罪の法定刑が引き上げられるのみで、侮辱罪が成立する要件は変わりません。

Q.侮辱罪の厳罰化はいつからですか?

A. 厳罰化(法定刑の引上げ)は、改正刑法が施行された2022年7月7日以降に行われた行為に適用されます。

施行の前に行われた行為は、改正前の法定刑が適用となります。

Q.侮辱罪と名誉毀損罪の違いは?

侮辱罪と名誉毀損罪の違いは?

A. 「事実の摘示」があるかどうかです。下記は名誉毀損罪について定めた刑法230条です。

公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金に処する。(刑法230条)

ここでいう「事実」とは、真実かどうかを問わず、具体的な事実を示して相手の社会的な評価をおとすものをさします。

事例としては下記などが挙げられます。

  • SNSに「あの店はまずい」と書く
  • 同僚のことを大勢の前で「あの人には犯罪歴がある」という

裁判例としては、娘が行方不明になった母親に対して「親が関与し人身売買、臓器売買が真相だろう」などとブログで中傷したとして、名誉毀損の疑いで男性を起訴した事件があります(東京高裁は懲役1年6月、執行猶予4年とした一審の千葉地裁判決を支持し、被告側の控訴を棄却)。

その他の類似の犯罪

相手の名誉を傷つける行為をした場合、侮辱罪や名誉毀損のほかにも、下記のような罪に当たる可能性があります。

信用毀損罪

信用毀損罪は、嘘の情報によって他人の信用を貶めた場合に、罪に問われます。

刑法第233条に定められており、法定刑は3年以下の懲役または50万円以下の罰金です。

虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。(第233条 信用毀損及び業務妨害)

ここでいう「信用」とは、支払能力や商品の品質などの「経済的な信用」のことをいいます。

当事務所でも、SNSでの中傷やデマを流した相手に対し、信用毀損罪で刑事告訴する支援を行いました。

信用毀損罪で刑事告訴するサポートを行った事例

業務妨害罪

業務妨害罪とは、下記の3つの犯罪をさします。

  • 威力業務妨害罪:他人の業務を威力(人の意思を制圧するに足りる勢力を示すこと)によって妨害する
  • 偽計業務妨害罪:嘘の情報を流すなどして他人の業務を妨害する
  • 電子計算機損壊等業務妨害罪:コンピューターの記録を破壊するなどして他人の業務を妨害する

法定刑は、威力業務妨害罪と偽計業務妨害罪は3年以下の懲役または50万円以下の罰金、電子計算機損壊等業務妨害罪は5年以下の懲役または100万円以下の罰金となっています。

ネットで中傷されたら

ネット上の中傷被害にあった場合、上記に述べた罪で刑事事件にはならなくても、民事事件で責任を問える可能性があります。

Twitterでのリツイートなど、再投稿であっても「拡散に加担した」とみなし、慰謝料などが請求できる可能性もあります。

総務省は相談窓口「違法・有害情報相談センター」を設け、下記のようなトラブルについて相談に乗っています。

  • 氏名、住所を無断で公開された。
  • 誹謗中傷と思われる書き込みをされた。
  • 自分の写真が勝手に掲載されているので、削除してもらいたい。
  • 誹謗中傷を書き込んだ人を特定したい。

Q.口コミサイトに嫌がらせと思われる書き込みが掲載されています。削除できませんか?

A. 口コミサイトはユーザーの主観による評価であるため、中傷かどうかの判断は難しいと思われます。

まずは規約を確認し、書き込みが規約に違反していると思われたら、サイト管理者にその旨を告げて削除を求めましょう。ただし、規約違反かどうかの判断はサイト管理者によるため、必ず削除に応じてもらえるわけではありません。

応じてもらえない場合、サイト管理者は「権利侵害はない」と判断していると思われます。どうしても削除したい場合、権利侵害の有無について弁護士に相談し、法的な手続きを検討しましょう。

Q.ブログで中傷されました。どうやって削除を依頼すればよいでしょうか?

A.

  1. 「ブログの作成者(管理人)」への連絡方法(問い合わせフォームやメールアドレスなど)を探して削除依頼をしましょう。
  2. 連絡が取れなければ、「サイトの管理者・サービスの提供者」や「プロバイダ・ホスティングサービス」の連絡先を探して削除依頼をします。

「違法・有害情報相談センター」のサイトには、削除依頼の書類のサンプルが用意されています。

削除依頼の流れについて | 違法・有害情報相談センター

SNSでの中傷などでお悩みの方は、ぜひ弁護士にご相談ください。

※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。