公開日:2022.08.15
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秘密保持契約(NDA)とは | 注意点などについて弁護士が解説
【本記事の監修】 弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋 (代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。
目次CONTENTS
秘密情報を相手方に開示する場合に取り交わす秘密保持契約(NDA)は、情報漏えいなどのトラブルを防ぎ、企業の価値を守るためにも重要です。秘密保持契約についての注意点や情報漏えい対策、雛形の使い方など、企業法務に精通する福岡・佐賀の弁護士法人 桑原法律事務所の弁護士が解説します。
秘密保持契約とは
秘密保持契約(NDA)とは、相手方に開示する「秘密情報」を外部に無断で漏らしたり、不正に利用されたりしないよう、情報の取り扱いについてルールを決める契約です。
英語では「Non-Disclosure Agreement」と呼ばれ、「NDA(エヌ・ディー・エー)」と略されています。
契約の相手方として考えられるのは、取引先(製造委託、営業委託、外注先など)や退職する従業員、共同研究相手などが考えられます。
秘密保持契約書を結ぶ際の注意点とは
秘密保持契約書には、一般的に、下記のような内容を盛り込みます。
秘密情報の定義
秘密にあたる情報を定めるために、まずは自社が持つ情報を洗い出します。具体的には、下記などが想定されます。
- 営業情報:取引先に関する情報(顧客リスト、仕入れ先リストなど)、新規事業計画、価格情報、接客・対応マニュアルなど
- 技術情報:研究・開発情報(設計図、実験データ、試作品情報など)や製造関連情報(製品の図面、製造プロセス、工場設備)など
- 個人情報:給与情報、住所録など
漠然とした定義づけでは、後々問題となることがありますので、できるだけ明確にする必要があります。
なお、秘密情報が不正に持ち出されるなどの被害にあった場合に、民事上・刑事上の措置をとるためには、その秘密情報が、不正競争防止法上の「営業秘密」として管理されている必要があります。
不正競争防止法2条6項 「営業秘密」とは、秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう。 |
上記の条文による3要件は、以下のように整理することができます。
- 秘密として管理されている=秘密管理性
- 事業活動に有用な技術上又は営業上の情報=有用性
- 公然と知られていないもの=非公知性
経済産業省のホームページでは、次の通り説明されています。
- 秘密管理性
営業秘密保有企業の秘密管理意思が、秘密管理措置によって従業員等に対して明確に示され、当該秘密管理意思に対する従業員等の認識可能性が確保されていること。 - 有用性
当該情報自体が客観的に事業活動に利用されていたり、利用されることによって、経費の節約、経営効率の改善等に役立つものであること。 - 非公知性
保有者の管理下以外では一般に入手できないこと。
営業秘密~営業秘密を守り活用する~ (METI/経済産業省)より
適用の範囲を定める
秘密情報を保持する義務のある人を定めます。経営者から一般従業員まで、どの範囲まで義務があるかを明確にします。
使用目的を明確にする
やり取りする情報をそもそも何のために使うのか、どのように使うのかといった目的を明記します。
秘密保持の期間
「秘密情報をやり取りする期間」「秘密情報を保持する期間」「契約書の有効期限」などを定めます。秘密保持契約は、秘密情報を開示する前には締結するようにしましょう。
秘密情報の返還・消去
目的が完了すれば、情報の返還や消去を求める条項を設けます。
秘密保持契約書の雛形:自社に応じてカスタマイズを
A. 経済産業省が公開している「秘密情報の保護ハンドブック」には、下記のような秘密保持契約書の雛形(参考例)が用意されています(171ページ以下)。
- 秘密情報管理に関する就業規則の例
- 秘密情報管理規程・秘密情報管理基準の例
a) 秘密情報管理規程の例
b) 秘密情報管理基準の例 - 秘密保持契約書の例
a) 従業員等の入社時
b) 従業員等のプロジェクト参加時
c) 従業員等の退職時
d) 他社による工場見学時 - 業務提携・業務委託等の事前検討・交渉段階における秘密保持契約書の例
- 取引基本契約書(製造請負契約)の例:製造業者が顧客から請け負う場合など
- 業務委託契約書の例:委託する側のみが秘密を開示する場合
- 共同研究開発契約書の例
なお、雛形をそのまま使用するのではなく、自社の事情に応じてカスタマイズするようにしましょう。
ただし、秘密保持契約書の作成や締結にあたっては検討すべき項目も多く、
- 雛形で作成した契約書で十分か?
- 自社のケースでは秘密保持契約書にどのような内容を盛り込めばよいのか?
- 自社に不利益な内容になっていないか?
など、お悩みの方もいらっしゃるかと思います。そのような場合は、専門家である弁護士にご相談いただくことをおすすめします。
Q. 秘密保持契約書に収入印紙は必要ですか?
A. 収入印紙は原則として不要です。
秘密保持契約書は課税文書にはあたらないためですが、別の項目(業務委託や請負など)が秘密保持契約の中に含まれると、課税文書とみなされ、収入印紙が必要になる可能性はあります。
Q. 秘密保持契約に違反するとどうなりますか?
A. 違反行為としては、主に下記のような行為が挙げられます。
- 目的外の使用
- 秘密情報の複製・分析
- 第三者への開示
違反した場合についての定めがあれば、下記のようなペナルティが考えられます。
- 差止請求:条項が設けられている場合
- 違約金の請求:条項が設けられている場合
- 損害賠償の請求:違約金について定めがないが、損害賠償の定めがある場合
Q. 情報漏えいで訴えられないためには?
A. 自社情報の独自性の立証、他社の秘密情報の侵害の防止、営業秘密侵害品に係る紛争の未然防止といった観点で、日頃から情報をきちんと管理しておきましょう。
対策としては、下記などが挙げられます。
- 自社の独自情報であることを客観的に立証できるよう、経緯書類を保存する
- 転職者の前職での契約関係を確認する
- 他社の秘密情報は分けて管理する
- 取引の中での秘密情報の授受(サンプルの受領時に書面確認する)
- 秘密情報の売り込みがあれば、情報の出所を書面で確認する
など
Q. 秘密保持契約のほかに、情報漏えいに備える対策とは?
A. 従業員や取引先など、漏えいが想定されるルートごとに、適切な対策をとりましょう。
たとえば、下記のような対策が考えられます。
秘密情報に近寄りにくくする仕組み
秘密情報にアクセスできる人を最小限にしましょう。アクセス権を設定する、退職者のアクセス権はただちに削除する、施錠管理する、サイバーセキュリティ対策を行うなどが考えられます。
持ち出しを困難にする仕組み
私物のUSBメモリの使用・持ち込みを禁止する、電子データは暗号化する、外部へのアップロードを制限するなどの対策が考えられます。
漏えいが見つかりやすい環境づくり
秘密情報を扱う場所のレイアウトを工夫する、職場の整理整頓を徹底する、防犯カメラを設置する、PCのログを記録するといった対策が考えられます。
秘密情報に対する認識向上
「秘密情報だと思わなかった」という事態を防ぐため、どの情報が秘密情報なのかが一目で分かるようにしておきましょう。「マル秘」「社外秘」などの表示、ルールの整備、研修の実施などの対策が考えられます。
社内の信頼関係の維持・向上
社員が「漏えいしよう」という気を起こさないよう、社内コミュニケーションや評価方法、ワークライフバランスの見直しなどを行いましょう。漏えい事例を周知するなども有効です。
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