公開日:2018.01.19 最終更新日:2022.08.25
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逮捕とは|逮捕されたらどうなる?|任意同行との違いとは
【本記事の監修】 弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋 (代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。
目次CONTENTS
逮捕とは、被疑者の身柄を強制的に拘束する処分であり、その後の短時間の拘束(留置)を伴うものです。
逮捕の瞬間は、よくテレビなどでも放送されるため、比較的イメージを持ちやすいと思います。一般的には、手錠をかけられ、その後、警察署に連れて行かれて、留置場で過ごすという流れが多いでしょう。
逮捕の目的:なぜ逮捕が行われるのか
捜査機関が被疑者を逮捕するのは、逃亡と罪証隠滅を防ぐためです。
逮捕は、被疑者の身柄を強制的に拘束するものであるため、重大な人権の制約であるといえます。それでも逮捕するのですから、逃亡と罪証隠滅を防ぐためにどうしても逮捕しなければならないという状況でない限り、逮捕は許されるべきではありません。
逮捕の理由および必要性は、慎重に吟味されるべきといえますし、弁護側からすれば、不当な逮捕については、いかなる理由で不当であるのかを捜査機関に訴え、被疑者の釈放を求めることになります。
不当な逮捕を防ぐためには、逮捕後、一刻も早く弁護士に相談すべきといえるでしょう。
3つの逮捕の手続きとは
逮捕の手続きは、大きく1.通常逮捕、2.緊急逮捕、3.現行犯逮捕の3つに分けられます。
通常逮捕および緊急逮捕については令状が必要ですが、現行犯逮捕の場合は令状が不要です(憲法33条)。
憲法33条 何人も、現行犯として逮捕される場合を除いては、権限を有する司法官憲が発し、且つ理由となっている犯罪を明示する令状によらなければ、逮捕されない。 |
また、通常逮捕については、逮捕前に裁判官から令状の発布を受ける必要があるのに対し(刑事訴訟法199条1項)、緊急逮捕については、逮捕後に令状の発布を受ければ足ります(刑事訴訟法210条1項)。
1.通常逮捕
通常逮捕についてみていきましょう。
前述のとおり、通常逮捕を行う前には、逮捕前に令状の発布を受ける必要があります。
刑事訴訟法199条1項本文 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、被疑者が罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由があるときは、裁判官のあらかじめ発する令状により、これを逮捕することができる。 |
逮捕状により被疑者を逮捕する場合は、逮捕状を被疑者に示さなければなりません(刑事訴訟法201条1項)。
そして、逮捕の要件は、逮捕の理由と逮捕の必要性です。
刑事訴訟規則143条 逮捕状を請求するには、逮捕の理由(逮捕の必要を除く逮捕状発布の要件をいう。以下同じ。)及び逮捕の必要があることを認めるべき資料を提供しなければならない。 |
- 逮捕の理由とは、罪を犯したと疑うに足りる相当な理由があることをいいます。
- 逮捕の必要性とは、逃亡または罪証隠滅のおそれがあることです。
これら逮捕の要件についての判断は、令状を発布する裁判官が行います。裁判官が判断を行うことにより、不当な人権の制約を防止するためです。
2.緊急逮捕
次に、緊急逮捕についてみていきましょう。
前述のとおり、緊急逮捕の場合は、逮捕後に令状の発布を受ければ足ります。
刑事訴訟法210条1項 検察官、検察事務官又は司法警察職員は、死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪を犯したことを疑うに足りる充分な理由がある場合で、急速を要し、裁判官の逮捕状を求めることができないときは、その理由を告げて被疑者を逮捕することができる。この場合には、直ちに裁判官の逮捕状を求める手続をしなければならない。逮捕状が発せられないときは、直ちに被疑者を釈放しなければならない。 |
緊急逮捕は、通常逮捕と比較すると、「死刑又は無期若しくは長期3年以上の懲役若しくは禁錮にあたる罪」という重大な犯罪に限定されています。重大な犯罪の例としては、殺人罪(死刑または無期もしくは5年以上の懲役)、強盗罪(5年以上の懲役)などです。
「重大な罪を犯した疑いが強いが、今すぐ被疑者の身体を拘束しないと逃亡されるかもしれない」という状況では、事前に裁判官の令状の発布を受ける余裕はありません。このような場合に、逮捕できるようにしたのが緊急逮捕です。
もっとも、事後的に裁判官から令状の発布を受ける必要がありますので、不当な人権の制約を防止することができるようになっています。
緊急逮捕の要件は、以下のとおりです。
- 重大な犯罪であること
- 重大な罪を犯したと疑うに足りる充分な理由があること
- 緊急に逮捕する必要性があること
3.現行犯逮捕
次に、現行犯逮捕についてみていきます。
前述のとおり、現行犯逮捕の場合は、令状の発布を受ける必要がありません(憲法33条)。裁判官の令状審査がないのであれば、不当に人権が制約されるのではないか?という疑問を抱かれる方もおられるかもしれません。
まずは現行犯逮捕を規定した刑事訴訟法212条以下をみていきましょう。
刑事訴訟法212条1項 現に罪を行い、又は現に罪を行い終わった者を現行犯人とする。 |
まず、「現行犯人」には、現に罪を行っている者が該当します。よく報道されるケースとしては、職務質問中に覚せい剤を所持していることが発覚したとか、バイクで暴走行為を行ったなどがあると思います。
また、犯罪を行い終わった者も現行犯人とされています。バイクで暴走行為を行い、追跡後、暴走行為を終えてから逮捕するなどもこのような場合にあたると思われます。
刑事訴訟法212条2項 左の各号の一にあたる者が、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときは、これを現行犯人とみなす。 |
- 1号 犯人として追呼されているとき
これは、「泥棒だ!」などと言われながら追われている場合をいいます。 - 2号 贓物又は明らかに犯罪の用に供したと思われる兇器その他の物を所持しているとき
万引きした店の品物を持っていたり、血の付いたナイフを持っていたりするような場合をいいます。 - 3号 身体又は被服に犯罪の顕著な証跡があるとき
ナイフで刺した犯人の服に被害者の返り血が付いているような場合をいいます。 - 4号 誰何されて逃走しようとするとき
夜間、警察に、「何をされているんですか?」などと言われ、何も言わずに逃げ出したような場合をいいます。
以上のとおり、1号から4号までのいずれかに該当し、かつ、罪を行い終わってから間がないと明らかに認められるときに、現行犯人とみなされます。
このように現行犯逮捕は、逮捕の理由及び必要性がある場合に限定されているといえます。したがって、逮捕をしても不当に人権を制約するおそれはないため、逮捕が許されているのです。
Q. 逮捕されたらどうなりますか?
A. 以下では、通常逮捕に沿って説明いたします。
通常逮捕の中でも、警察官が逮捕した場合にどうなるのか?については、以下のような流れになります。
- まずは、逮捕後すぐに弁解録取手続がとられます。
- その後、警察官は、被疑者を留置する必要があると考えた場合には、48時間以内に書類・証拠物とともに被疑者を検察官に送致します。
- 検察官に送致されると、再度、弁解録取手続がとられます。
- そのうえで、検察官は、被疑者を留置する必要があると考えられる場合には、警察官から被疑者を受け取ったときから24時間以内に、被疑者の勾留を裁判所に請求しなければなりません。また、時間制限としては、被疑者が身体を拘束された時から72時間を超えることはできません。
- 勾留請求された場合、勾留請求を認めるか否かを裁判官が判断し、勾留決定がなされた場合には、勾留請求の日から10日間勾留されることになります。そのうえで、さらに10日間勾留が延長されることもあります。
- (1)勾留請求の日から10日間ないし20日間以内に検察官が公訴を提起しなければ、釈放されることになります。
(2)公訴提起された場合には、身体拘束がそのまま継続することになります。
したがって、公訴提起されなければ、身体拘束の期間は最長23日間となります。もっとも、他の罪を理由として再度逮捕された場合には、再度最長23日間の身体拘束を受ける可能性があります。
勾留中は、接見禁止がつくことも考えられますし、その場合には、外の世界との接点は弁護士しかなくなります。接見禁止がつかない場合であっても、弁護士以外との接見の場合には警察官が面会に立ち会いますので、心理的に自由に話すことが難しいと考えられます。
逮捕、勾留された場合には、弁護士を選任することが重要です。
Q.逮捕後、留置されるのはいつまで?
司法警察員は、逮捕の時から48時間以内に、被疑者の身柄を検察官に送致しなければなりません(刑事訴訟法203条1項参照)。
送致を受けた検察官は、身柄を受けた時から24時間以内に裁判官に被疑者の勾留を請求しなければなりませんが(刑事訴訟法205条1項)、この期間は、逮捕の時から合算して72時間を超えることはできません(刑事訴訟法205条2項)。
すなわち、留置は逮捕の時から72時間となります。もっとも、一般的には、逮捕後、48時間以内に勾留請求までされるケースが多いと思われます。
Q.別件逮捕とは?
別件逮捕とは、裁判所から逮捕状を得るだけの嫌疑がない事実(以下「本件」といいます。)について取調べなどの捜査を行うために、逮捕するだけの証拠がある「別件」による逮捕を行うことをいいます。
重大事件を起こした被疑者を逮捕したいが証拠がない場合に、証拠がある別の被疑事実にもとづいて逮捕してしまうものです。
このような別件逮捕は適法なのでしょうか。別件逮捕が違法の場合、逮捕後に作成された供述調書が証拠として認められない可能性が生じます。よって、別件逮捕が適法なのかが重要となります。
「別件」での逮捕の理由や必要性がないのに、「本件」での取調べを行う意図で「別件」での逮捕を行うことは、明確に違法となります。
一方、「別件」での逮捕について理由や必要性が認められる場合については、様々な見解があります(この場合、適法と考えるものや、その後の捜査が「本件」についてされていると評価される場合は違法とするものなど。)。
弁護人としては、別件逮捕ではないかと疑われる場合、十分な調査を行い、供述調書が適法な証拠かなどを検討することになります。
Q.逮捕と任意同行の違いとは?
逮捕と任意同行は、いずれも警察署等に連れて行かれ、捜査機関から聴取を受けるという点は変わりありません。
異なる点は、それが強制で行われるのか否かという点です。
逮捕の場合、法に則った手続により、捜査機関は強制的に被疑者を連行することが可能です。被疑者が拒絶した場合であっても、捜査機関は強制力を持って連行することが可能です。
通常逮捕の場合、事前に発付を受けた逮捕状を示され、逮捕する旨告げられ、連行されることになります。
任意同行の場合、任意に同行するということですので、警察署等に行くのは被疑者の自由です。
そのため、任意同行を求められた際に、応じないという選択肢もありえます。もっとも、任意同行に応じない場合、捜査機関が逮捕状の発付を受け、逮捕することも考えられますので、捜査機関から任意同行の要請があった場合には、弁護士への相談をおすすめいたします。
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