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法律コラム

公開日:2023.04.17

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越境した枝を自ら切除できる権利の創設 | 民法改正 | 弁護士が解説

目次CONTENTS

隣地から枝を越境された土地の所有者は、一定の要件を満たせば自ら枝を切り取ることができる権利を定めた改正民法が2023年4月、施行されました。所有が分からない土地の問題を解決する対策のひとつで、隣から伸びる枝に困っている人には対処の選択肢が増えることになります。改正のポイントについて、福岡・佐賀の弁護士法人 桑原法律事務所の弁護士が解説します。

民法での「枝の越境」とは

「枝の越境」とは、隣地から樹木の枝が伸びてきて、境界を超えることです。枝の越境によって、下記のような影響が考えられます。

 

  • 伸びてきた枝によって日当たりが悪くなる
  • 枝から落ち葉が落ちてきて掃除する手間がかかる
  • 枝が壁に当たって、壁が傷が付いた

 

こうした場合に枝を切りたくても、従前の民法では枝を自ら切除はできず「竹木の所有者に、その枝を切除させることができる」とされているのみでした(民法233条1項)。

さらに隣地が所在不明土地であれば、樹木が管理されず荒れ放題になったり、災害時の救助活動の妨げになったりするなど、問題は大きくなる可能性があります。

そこで、2023年4月1日の民法改正によって越境された土地の所有者は「竹木の所有者に枝を切除させることができる」という原則は維持しつつ、新たに下記に挙げる2つのルールが追加されました。

民法改正①共有の枝は1人でも切除可能

隣地から枝が越境した場合、もとの竹木が複数人での共有であれば、各共有者は、枝を切り取ることができるという決まりが設けられました。すなわち、他の共有者の同意などを得なくても、単独でその枝を切り取ることができるようになりました(民法233条2項)。

また、これまでは隣地が共有名義であった場合、隣地の枝が越境されている土地の所有者は、隣地の共有者全員から債務名義(判決)を得る必要がありました。しかし、今回の改正によって、隣地の共有者の一人に対する枝の切除の債務名義(判決)が得られれば、強制執行によって枝の切除が可能になりました。

民法改正②越境された側で枝切除可能

以下の要件のいずれかを満たせば、越境された土地の所有者は、越境した枝を自ら切除することができるようになりました。(民法233条3項)

 

  1. 竹木の所有者に枝を切除するよう催告したのに、竹木の所有者が相当の期間内に切除しない:「相当の期間」とは、竹木の所有者が枝を切除するために必要と考えられる期間です。ケースバイケースですが一般的に、2週間程度とされています。
  2. 竹木の所有者が分からない、またはその所在が分からない:隣地の所有者がどこにいるのか不明で建物は空家だったり、庭木は荒れたままだったりする場合、調査を尽くしても所有者または所有者の所在を知ることができないケースが考えられます。調査とは一般的に、現地の調査や不動産の登記簿、住民票などの公的記録を確認することを指します。
  3. 急迫の事情がある:さしせまった事情があれば催告なしで、隣地の所有者の枝の切除が認められます。たとえば災害によって木の枝が折れてしまい、落下して自分の建物に危険を及ぼすおそれがあるような場合が考えられます。

枝を切り取った費用の負担

改正後の民法には、枝を切除した場合の費用負担について、改正後の民法の条文に明記されてはいません。

しかし、法務省の資料によると、「枝や根の越境について通常は不法行為が成立し、損害賠償請求権が発生することなどを踏まえると、特に規律を設けなくても、切除費用は通常竹木所有者の負担となると考えられる」としており、土地の所有者が枝の切り取るための費用については、竹木の所有者に対して、切除のための費用を負担するよう求めることができると考えられます。

 

このほかの所有者不明土地をめぐる法改正

所在不明土地の問題を解決するための対策として、2023年4月に施行される法改正はこのほかにも下記などがあります。

相続などで所有した土地を手放したいというニーズに対応するため、要件を満たせば土地を国庫に帰属することができる決まりを定めた「相続土地国庫帰属法」→詳しくはこちら

土地など財産の共有についての民法の決まりが見直され、いままでは共有財産の利用について、共有者全員の同意が必要だったのが不要に→詳しくはこちら

 

弁護士にご相談ください

今回の改正で隣地から伸びた枝について切除について選択肢が増えましたが、”勝手に何でも切ってよくなった”というわけではありません。

まずは隣地の所有者に枝を切ってもらえるよう、口頭や書面で頼むことが原則であることは変わりませんが、隣地が所在不明土地であれば対処もままなりません。一方で、相続したものの放置したままの共有地などがあれば、隣地に枝が伸びて対処を求められる可能性もあります。

当事務所は、総合法律事務所として幅広い分野の法律サービスを提供しています。様々な案件に関する多角的・包括的解決のための知識や経験を蓄積しており、大きな強みとなっています。「目の前の課題を解決することから、そのもう一歩先へ」との思いで案件に向き合っています。

「こんな小さなことでも?」とためらわず、まずはお気軽にご相談ください。

 

※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。