公開日:2025.10.01
判決公開制度が市民や企業に与える影響
桑原ブログ
爽秋の候、皆様におかれましてはますますご清祥のことと存じます。
令和7年5月23日、民事裁判情報の活用の促進に関する法律が成立し、2年以内に判決を公開する制度が本格的に始まります。
これまで専門家だけがアクセスしがちだった判例が、判決公開制度の開始によって、もっと市民に身近な存在となりうるのでしょうか。
本法律の概要は、以下のとおりです。
1 公開の対象となる事件は、民事事件と行政事件の判決のみ
刑事事件、家事事件の判決等は対象外であり、幅広くあらゆる事件の判決等が公開される訳ではありません。これまでも、世間の注目を集めた事件に関する判決や、法律に関する重要な先例的価値を有する判決(審判)は、有料の判例情報誌等で公表されることはありましたが、実際の判決数のごくわずかな範囲でしたので、民事判決の部分では画期的ですが、刑事判決や家事判決(家事審判)の部分では、本制度の開始は格別の変化をもたらさないでしょう。
2 過去の判決は公開対象外
制度開始以降に言い渡された判決から順次公開していくことが予定され、過去の累計1000万~2000万件とも言われる判決すべてが公開される訳ではありません。制度開始後の議論で、順次過去の判決等も公開していく可能性はありますが、そこは将来の議論に委ねられています。
3 個人情報等は、匿名加工されて公開
どの範囲で匿名加工されるかの詳細は現時点では協議中ですが、当事者の個人名などの個人情報と訴訟の中で閲覧制限が掛けられた部分に関する情報を匿名加工すべきとされており、当事者である会社名とか、企業の営業秘密等については、匿名加工とすべき対象とはならないのが原則です。したがって、企業が民事訴訟で何らかの判決を受ける場合、それが今後広く世の中に公開されることを前提に、判決前に閲覧制限の申立てをするなり(通るとは限りません)、判決を回避して和解するなどしないと、後は過去の自社に関するトラブル情報が広く市民に共有される世になることに留意すべきでしょう。
4 裁判官の氏名は、公開される
判決を言い渡した裁判官の氏名は、公開されます。これにより、当該裁判官が過去どのような判決を書いてきたかの分析・検討がこれまで以上に容易になり、当該裁判官の個性を踏まえた傾向と対策に特化して訴訟戦略を立てていくことが、法律事務所の提供価値として差別化要素となっていくことが想定されます。
5 訴訟代理人である弁護士の氏名は、公開対象か検討中
訴訟代理人である弁護士の氏名が公開されるかは、現在協議中ですが、現在でも有料の判例検索サイトでは私達の了解を得ずに公表されていますので、これに倣って公開される可能性が高いでしょう。その場合、過去当該弁護士がどのような事件に取り組み、どのような成功判決・失敗判決を重ねてきたかも市民に広く共有され、本当の意味での弁護士の専門力が客観的に比較される時代が到来しそうです。
6 国の指定法人が、有料で判決情報公開サービスを提供
指定法人と有料で契約を結んだユーザーだけがアクセスできる仕組みのようなので、広く市民がインターネット上で、いつでも、無料で判決にアクセスできる制度は予定されていません。
まとめますと、公開の範囲が限定的であることや、有料サービスとなることから、短期的に広く市民が過去を含めたあらゆる判決情報にアクセスできる訳ではない、といえます。
しかし企業にとっては、広く民事紛争がネット上で当然に公開されていく時代が近付いている訳で、民事紛争で何らかの判決を受けた企業にとっては、当該判決に記載された情報が広く市民に共有され続ける可能性が高いことを肝に銘じておくべきですし、これを踏まえた訴訟回避戦略、予防法務にこれまで以上に注力すべきとは言えるのでしょう。

