公開日:2025.12.01
職場の「ちゃん付け」判決から学ぶハラスメント対策
桑原ブログ
早朝の寒さが体に染み入る季節となってきました。
さて令和7年10月23日、東京地方裁判所は、40代女性が年上の同僚男性から受けた言動について、セクシュアルハラスメントに当たるとして、男性に22万円の賠償を命じる判決を言い渡しました。
1事案の概要
報道によれば、東京都内の佐川急便の営業所に勤務していた40代女性が、2021年5~11月頃、別の課の40代男性から、名字に「ちゃん」を付けて日常的に呼ばれる、「体形いいよね。俺なんかガリガリだよ」、「かわいい」、「下着が見えてしまう」などの発言を受けていました。女性はうつ病と診断され休職し、その後退職しています。女性は男性と会社を相手取り約550万円を請求しましたが、男性に対しては22万円の支払いが命じられ、会社との訴訟は会社が解決金70万円を支払う内容で令和7年2月に和解が成立したと報じられています。
2裁判所が問題視した点
判決は、「ちゃん付け」について、①一般には幼い子どもや交際相手など親密な関係で用いられる、②同僚同士の職場で、業務上用いる必要性は見出しがたい、③親しみのつもりだったとしても、女性に不快感を与えるものだった、と指摘し、容姿・体形・下着への言及と合わせて「許容される限度を超えた違法なハラスメント」と認定しました。セクハラは、被害者が「意に反する」と感じるかどうかに加え、通常の労働者の感覚から見て就業環境を害する程度かどうかで判断されます。「親しみを込めた」「悪気はなかった」といった行為者の主観は、限定的にしか考慮されません。
3企業としての実務的ポイント
今回の判決を踏まえ、企業としては次の点を見直すことが重要です。
① 呼び方のルールを明確にする
・原則:社内では「名字+さん」で呼ぶ
・「ちゃん付け」「くん付け」「呼び捨て」は、原則として業務上用いない
・本人希望のニックネームがある場合でも、会議等の場では「さん」に戻すなど、場面に応じたルールを決める
なお、厚生労働省の資料でも、「○○ちゃん」「○○くん」といった呼称がセクハラに当たり得る例として示されています。
②容姿・外見への言及は避ける
・「かわいい」「体形いい」「痩せた?」「太った?」といった外見に関するコメントは、原則として控える
・代わりに、「この資料は分かりやすい」「○○の対応が助かった」など、仕事の成果や行動にフォーカスしたフィードバックを心がける
③相談窓口と教育の充実
・セクハラ防止は男女雇用機会均等法等により企業に措置義務が課されています。また、パワハラ防止については労働施策総合推進法に基づく義務があります。
・匿名相談も含めた相談窓口の整備と周知
・管理職・一般従業員向けの定期的なハラスメント研修の実施(今回の判決のような最新事例を題材にする)
4おわりに
「ちゃん付け」は一見ささいな言葉遣いですが、相手との関係性によっては相手の尊厳を損なう行為になり得ます。今回の判決は、「昔は普通だった」「親しみのつもりだった」という感覚を是正し、互いの人格を尊重するコミュニケーションに改める必要性を示したものと言えるでしょう。

