MENU
お問合せ

COLUMN

弁護士のコラム

公開日:2023.07.27

固定残業代の有効性を否定した最高裁判例

法律コラム

令和5年3月10日に、固定残業代の有効性を否定する最高裁判決が出されました。
トラック運転手が退職後に、勤務していた会社に対して、残業代等を請求した事案です。
平成27年に労働基準監督署の指導を受けて給与体系等を改定したこと、その後から会社は運転
手の労働時間管理をするようになったこと、新旧給与体系改定の前後を通じて総支給額から基本給
等を差し引いた額を時間外手当とみなすルールは実質的に変わっていなかったことが、特徴的な事
案です。

最高裁判所は、最初に平成30年7月19日の日本ケミカル事件で判示した規範を引用しました。

雇用契約において、ある手当が時間外労働等に対する対価として支払われているかは、雇用契約
書等の記載内容、労働者に対する当該手当等に関する説明の内容、労働者の実際の労働時間等の諸
般の事情を考慮して判断すべきである。その判断に際しては、労働基準法37条が時間外労働等を
抑制するとともに労働者への補償を実現しようとする趣旨による規定であることを踏まえた上で、
当該手当の名称や算定方法だけでなく、賃金体系全体における当該手当の位置付け等にも留意して
検討しなければならない。

これを前提に最高裁判所は、①解釈の仕方によっては新給与体系が旧給与体系よりも「通常の労働
時間の賃金の額」が大きく減少する可能性があること、②運転手に1か月当たり平均80時間弱の時
間外労働等があり、給与体系上、これを上回る長時間労働が想定されていたこと、③給与体系変更に
伴う十分な説明がされていないこと、などを指摘して、新給与体系が、割増賃金を支払わないで済
むようにするものであり、長時間労働を常態化することを想定したルールであるとの指摘をした上
で、固定残業代の定めを無効と判示しました。

固定残業代の有効性に関しては、各地の裁判所で時期によって、判断が大きく割れてきました。
平成20年代、固定残業代は無効であるとの従業員有利な判例が続いていましたが、平成30年
7月19日の日本ケミカル事件で従業員が敗訴して以降は、逆に従業員に不利な判断傾向が続くよ
うになりました。しかし、今回、再び従業員有利な判断が出ましたので、今後は再び固定残業代の
有効性を厳しく審査する判例が増えていくことが予想されます。

企業にとっては、固定残業代が有効とはなりにくい、再び厳しい時代が到来した可能性もあります。
残業代請求リスクの少ないルール策定と労働時間管理を含めた現場運用の徹底が、将来のリスク
対策として大切ですので、ご留意ください。

ご相談から解決まで、
高い満足度をお約束。

ご相談から解決まで、高い満足度をお約束。

最初にご相談いただくときから、問題が解決するまで、依頼者様の高い満足度をお約束します。
そのために、私たちは、専門性・交渉力(強さ)×接遇・対応力(優しさ)の両面を高める努力をしています。