公開日:2020.10.27
令和2年10月15日最高裁判決(日本郵便事件)の判例解説
萬代ブログ , 判例について
令和2年10月15日、最高裁において、同一労働・同一賃金に関する重要な判決がありました。
概要
日本郵便における正社員と契約社員との待遇の格差、具体的には、扶養手当、病気休暇、夏期冬期休暇、年末年始勤務手当、年始期間の祝日休を契約社員に認めないことが労働契約法20条(現:パート・有期労働法8条、末尾記載参照条文参考)で禁止される不合理な格差にあたるか否かが争われた事案。
判決内容
これに対し、最高裁は、個々の賃金項目に係る相違が労働契約法20条にいう不合理と認められるものであるか否かを判断するに当たっては、各労働条件の相違についても、個々の労働条件の趣旨を個別に考慮すべきとした上で、上記各種手当を契約社員に認めないことは、不合理な格差にあたると判断しました。
留意点
最高裁判決の結論だけを見ると、正社員だけではなく契約社員にも上記各手当、休暇を与えなければならないと判断したように思えますが、実際はそうではありません。
判決文を確認すると、各種労働条件の趣旨を個別に判断した上で、どの範囲の契約社員にその趣旨が妥当するかを都度判断しています。
例えば、病気休暇に関しては、病気休暇の趣旨を、長期継続勤務が期待される正社員の生活保障を図り、私傷病の療養に専念させることを通じ、継続的な雇用を確保すること、と認定し、かかる趣旨は、「相応に継続的な勤務が見込まれる」契約社員にも当てはまると判断しています。
つまり、労働条件の相違の趣旨、「相応に継続的な勤務が見込まれる」か否かで、判断は全く分かれる可能性があります。
結論
以上のように、今回の最高裁判決は契約社員との待遇格差について一律の判断を示すものではなく、あくまで事例判断という理解をしておくべきです。
つまり、今後同様の紛争が生じた場合にも、結論は変わりうるということになります。
とはいえ、労働条件の相違の趣旨が適法、違法の重要な判断材料となることは示されておりますので、各種手当等の支給の趣旨は、明確に規定し直し、紛争を事前に予防しておくべきでしょう。
さいごに
2021年4月1日より、「同一労働同一賃金」のための改正パートタイム・有期雇用労働法が中小企業にも施行されます。
「待遇の差が不合理といえるか否か」の判断はケースバイケースで非常に難しく、法改正に伴う就業規則や契約書の改訂が思うように進んでいないという企業も多いのではないでしょうか。
不安を感じられている場合は、ぜひ一度、弁護士への相談をおすすめいたします。
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【参照条文】
①労働契約法20条(期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止)
有期労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件が、期間の定めがあることにより同一の使用者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者の労働契約の内容である労働条件と相違する場合においては、当該労働条件の相違は、労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(職務の内容)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。
②パート・有期労働法8条(短時間労働者の待遇の原則)
事業主が、その雇用する短時間労働者の待遇を、当該事業所に雇用される通常の労働者の待遇と相違するものとする場合においては、当該待遇の相違は、当該短時間労働者及び通常の労働者の業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度(以下「職務の内容」という。)、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情を考慮して、不合理と認められるものであってはならない。