公開日:2022.07.06
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優越的地位の濫用とは | 独占禁止法と事例 | 弁護士が解説
【本記事の監修】 弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋 (代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。
目次CONTENTS
飲食店の評価サイト「食べログ」で評価が下がり、売り上げが減ったとして、飲食店の経営会社が食べログ側に損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁は店側の要求を認め、食べログ側に3840万円の支払いを命じました。独占禁止法(独禁法)が禁じる「優越的地位の濫用」に当たるとの判断です。プラットフォームを利用したり、下請けを担ったりする中小企業にとっては押さえておきたいポイントです。企業法務に精通する桑原法律事務所の弁護士が解説します。
優越的地位とは:力関係が強い側
優越的地位とは、分かりやすくいうと「取引での力関係が相手より強い」ことを意味します。
「優越的地位の濫用」は取引上、相手より強い立場にある企業などが地位を利用して、相手の事業者に対し、正常な商慣習に照らして不当に不利益を与える行為です。
該当しうる例として下記などがあります。
- 無償で従業員を派遣させる
- 商品を強制的に購入させる
- コンビニのチェーン本部が24時間営業や値下げ禁止を加盟店に強要する
公正で自由な市場競争のルールを定めた独占禁止法で、不公正な取引方法の一つとして禁止されています。
違反が国の公正取引委員会(公取委)によって認められれば、下記などの行政処分が課される可能性があります。
- 排除措置命令:違反する行為を速やかに止め、市場競争を回復させるのに必要な措置を命じる。
- 課徴金納付命令:継続した場合には課徴金の対象に。
「優越的地位の濫用」事例1:食べログ裁判
報道によれば、「食べログ裁判」は2020年5月、韓国料理チェーン店の運営会社「韓流村」(本社・東京)が起こしました。被告は大手グルメサイト「食べログ」の運営会社「カカクコム」(本社・東京)です。
食べログ側は口コミを元に独自のアルゴリズム(計算手順)で、5点満点の評価をしています。掲載店は2022年現在で約82万店、サイトの月間利用者数は8700万人を超えるといいます。
韓流村によると「食べログ」で2019年5月、同社が営む焼き肉店21店舗中、19店舗の評価が急落しました。ネガティブな口コミが増えていないのに下がったのは、「食べログ」のアルゴリズムが変更されたのが原因と主張しました。
韓流村は「変更は優越的地位の濫用にあたり、独禁法に違反する」として、低評価の影響による売上の減少額などから、下記を求めていました。
- 約6億3905万円の損害賠償
- 変更後のアルゴリズムの使用差し止め
カカクコムはアルゴリズムの変更自体は認めたものの「変更は独禁法の禁止事項に当たらない」として争いました。
判決は「優越的地位の濫用」認める
東京地裁の判決は、「有料登録店でなくなると、経営上大きな支障をきたし、食べログ側が著しく不利益な要請をしても受け入れざるを得ない状況にある」として、食べログ側の「優越的地位」を認めました。
そのうえで、アルゴリズムの変更は「優越的立場を利用して、韓流村にとって不利益になるように取引を実施した」とし、「優越的地位の濫用」に当たると判断しました。
損害額はアルゴリズム変更に起因する分として3840万円と算出し、食べログ側に支払いを命じました。アルゴリズムの使用差し止めの求めは退けました。
カカクコムは判決を不服として、控訴したと発表しました。韓流村側も控訴する方針を示しています。
「優越的地位の濫用」事例2:楽天市場
公取委は2021年12月、ECモール「楽天市場」を運営する楽天に、独禁法違反と疑われる行為があったと発表しました。
公取委が問題視したのは楽天が2020年3月、全店一律に強いた送料無料化です。原則として税込み3980円(沖縄・離島は9800円)以上の注文で、送料を無料にするルールです。
公取委は2020年2月、楽天に「優越的地位の濫用」の疑いがあるとして、東京地裁に無料化の一時停止を求め、緊急停止命令を申し立てました。
楽天は同年3月、無料化するかどうか出店者が選べるようにしました。
これを受けて公取委は申し立てを取り消したものの、審査を続け、楽天側が不参加店舗に対して、無料化に不参加なら「不利益な扱い」とすることを示唆したことを確認しました。
示唆した内容とは下記などです。
- 検索画面で上位に表示されなくなる
- 次回の契約更新時に更新をしない
こうした行為によって無料化した結果「利益が減った」とする店もみられ、公取委は「優越的地位の濫用」に当たると判断しました。
Q.下請けをしています。発注先から値下げ要求がありましたが、どう対応したらよいでしょうか。
A. まず、値下げ要求があっても、即答は避けましょう。
中小企業庁のサイトによると、①準備、②価格交渉、③価格・取引条件の文書化がポイントです。
1.準備
値下げを求められたら即答は避け、持ち帰って交渉のための準備に入ります。発注先が求める品質水準を達成するのにかかるコストや自社のコストダウンについての資料を作成します。
発注先との関係性の確認、自社の強みについても言語化しておきます。
取引先への「提示価格」、自社が納得できる「目標価格」、譲れない「最低価格」を決めます。いずれも価格を決める際には、損益分岐点や限界利益についても算出します。
下請法を確認しましょう
下請法(下請代金支払遅延等防止法)についても理解しておきましょう。
「優越的地位の濫用」に対する規制について、独禁法を補完するのが下請法です。
中小企業が下請けとして大手企業と取引をする場合、まず下請法が適用されるかどうかで検討します。
下請法は親事業者が強い地位を利用して、下請けに一方的な取引を強いることなどを禁じています。親事業者に対しては、下記の「4つの義務」を定めています。
- 書面の交付義務:給付や下請代金の額や支払期日など発注内容を明確に記載した書面を交付
- 書類作成・保存義務:給付や下請代金の支払いなど取引に関する記録を記載した書類を作成し、2年間保存
- 下請代金の支払期日を定める義務:支払期日は給付を受領した日から60日以内かつできるだけ短い期間内に定める
- 遅延利息の支払義務:支払期日までに支払わない場合は、給付を受領した日の60日後から、支払った日までの日数に、年率14.6%を乗じた金額を「遅延利息」として支払う
また、下記のとおり、親事業者による11の禁止行為も定めています。
- 受領拒否の禁止
- 下請代金の支払遅延の禁止
- 下請代金の減額の禁止
- 返品の禁止
- 買いたたきの禁止
- 物の購入強制・役務の利用強制の禁止
- 報復措置の禁止
- 有償支給原材料等の対価の早期決済の禁止
- 割引困難な手形の交付の禁止
- 不当な経済上の利益の提供要請の禁止
- 不当なやり直し等の禁止
2.価格交渉
価格交渉では「低価格実現のため、発注者と一緒に何ができるか」を考えましょう。
前提として、発注者が求める水準に必要な工数、技術的な難易度、知的財産の対価などについて説明し、数値化できないコストについての理解を求めます。
必要に応じて、価格以外の対案や条件を提案しましょう。
3.条件の文書化
後々のトラブルを防ぐために、議事録の作成や、取引条件・ルールについて文書化しましょう。
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