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法律コラム

公開日:2019.02.14 最終更新日:2022.08.25

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執行猶予とは|要件や期間|起訴猶予との違いとは?

目次CONTENTS

執行猶予とは、刑の言渡しがなされた場合に、情状により一定期間その執行を猶予し、期間が経過したときは、刑の言渡しがその効力を失い、刑罰権が消滅するという制度です。

例えば、万引き(窃盗)をして起訴され、懲役1年・執行猶予2年という判決を受けた場合、刑の執行が2年間猶予されますので、ただちに刑務所に入る必要はありません。そして、これまでどおりの生活をし、2年が経過するまで何事も起こさず過ごすことができれば、懲役に服する必要がなくなります。

執行猶予が言い渡されない場合はどうなる?

仮に、執行猶予が言い渡されない場合、例えば懲役1年という刑の言渡しのみがなされた場合は、執行が猶予されませんので、ただちに刑務所で1年間の懲役に服さなければならないわけです。

このように、執行猶予が言い渡されるか否かによって、その後の人生にとって大きな違いが生じてきますので、執行猶予を獲得できるか否かは非常に重要です。

執行猶予の言渡しの要件

執行猶予には全部執行猶予と一部執行猶予がありますが、以下では、全部執行猶予の要件について解説いたします。

執行猶予には、以下の二つがあります。

  1. 初度目の執行猶予(刑法第25条第1項)
  2. 再度の執行猶予(刑法第25条第2項)

1. 初度目の執行猶予の要件

(ア)「前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」であるか、
(イ)「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者」であることが必要です。

そして、(ア)(イ)の者が、「3年以下の懲役若しくは禁錮または50万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」に「情状により」刑の執行を猶予することができます。

2.再度の執行猶予の要件

「前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者」であることが必要です。この場合、「1年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け」た場合に限られます。①の「3年以下の懲役若しくは禁錮又は50万円以下の罰金の言渡しを受けたとき」とは異なり、かなり厳格な要件となっています。

また、「情状に特に斟酌すべきものがあるとき」でなければならず、この点においても、「情状により」とする初度目の執行猶予よりも厳格であるといえます。

そして、「刑法第25条の2の第1項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者」については、執行猶予は認められません。もっとも、保護観察の期間内であっても、保護観察が仮に解除されたときは、それが取り消されるまでの間は保護観察に付されなかったものとみなされます(刑法第25条の2第3項)。

執行猶予の期間

執行猶予の期間は、「裁判が確定した日から1年以上5年以下の期間」です(刑法第25条第1項)。

執行猶予の効果

執行猶予の効果についても確認しましょう。

まず、執行猶予の要件を満たすことにより、刑の執行が猶予されますので、一定期間刑の執行が実施されないことになります。懲役刑でいえば、執行が実施されないということは、刑務所に入れられないということです。

次に、刑の全部の執行猶予の言渡しを取り消されることなくその猶予の期間を経過したときは、刑の言渡しは、その効力を失います(刑法第27条)。「取り消されることなく」とあるのは、執行猶予が取り消される場合があるからです。

執行猶予の取消しとは

執行猶予の取消しには、必要的取消し裁量的取消しの2つがあります。

1.必要的取消し

執行猶予を取り消さなければならない場合

(ア)「猶予の期間内に更に罪を犯して禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき」
(イ)「猶予の言渡し前に犯した他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部について執行猶予の言渡しがないとき」
(ウ)「猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき」

ただし、(ウ)の場合において、猶予の言渡しを受けた者が刑法第25条第1項第2号(*1)に掲げる者であるとき、または刑法第26条の2の第3号(*2)にあたるときはこの限りではありません。

(*1) 第25条第1項第2号
前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
(*2) 第26条の2の第3号
猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられたことが発覚したとき。

2.裁量的取消し

執行猶予を取り消すことができる場合

(ア)猶予の期間内に更に罪を犯し、罰金に処せられたとき
(イ)第25条の2第1項の規定により保護観察に付された者が遵守すべき事項を遵守せず、その情状が重いとき
(ウ)猶予の言渡し前に他の罪について禁錮以上の刑に処せられ、その刑の全部の執行を猶予されたことが発覚したとき

起訴猶予と執行猶予の違いとは?

「起訴猶予」と「執行猶予」の違いについて、見ていきましょう。

起訴猶予は、起訴するか(刑事裁判とするか)否かの判断において、起訴しないと判断されることをいいます。

執行猶予は、刑事裁判において懲役刑を科すが、直ちに刑事施設に収容するのではなく、執行猶予期間中、罪を犯して禁錮以上の刑に処せられなければ、その期間経過後は今回の裁判での懲役刑に服さなくてもよいということをいいます。

それぞれの違いには以下のような点があります。

  • 判断する者
    起訴猶予とするか否かを判断するのは、検察官です。
    一方で、執行猶予を付けるか判断するのは、裁判官です。
  • 判断されるタイミング
    「起訴猶予」は、言葉のとおり、起訴が猶予されるということですので、裁判に至る前に判断されます。起訴猶予されれば、裁判とはなりません。
    「執行猶予」は、裁判の中で判断されます。
  • 前科がつくかどうか
    「起訴猶予」は、前述のとおり裁判となりませんので、前歴となることはあっても、前科とはなりません
    「執行猶予」は、懲役刑等の言渡しを受けることになりますので、直ちに刑事施設に収容されないとしても前科となります

起訴猶予と執行猶予は似ているようにも思えますが、まったく異なるものです。今後どうなるのかお悩みの際には、当事務所までご相談ください。

執行猶予期間中に有罪判決を受けたら

執行猶予期間中に禁錮以上の有罪判決を受けると、その有罪判決の禁錮ないし懲役に加えて、猶予されていた懲役刑等の期間を服役しなくてはならなくなります。

公務員が執行猶予付き判決を受けたら

国家公務員の場合、執行猶予が付いていても失職することになります(国家公務員法76条、38条2号)。

地方公務員の場合も、基本的には執行猶予がついても失職することになります(地方公務員法28条4項、16条2号)。

もっとも、福岡市の場合、「その罪が過失によるものであり、かつ、刑の執行を猶予された者」については、情状によって失職とならない可能性もあります(福岡市職員の分限に関する条例9条の2)。

Q.刑務所を出所して7年後の逮捕。執行猶予を付けることは可能?

刑務所から出所して7年経ったときに、万引きで逮捕されたら、執行猶予をつけることは可能なのでしょうか。

前刑の執行が終わった日から7年が経過していますので、執行猶予をつけることは、法律上は可能です。

もっとも、判決で言い渡される懲役刑が3年以下でなければなりませんし、執行猶予の要件に該当する場合であっても、必ずしも執行猶予が付されるとは限りません

今回は、すでに実際に懲役刑に付されていることを考えると、宣告される刑が長期になる可能性もありますし、執行猶予を付すべきではないと判断される可能性があると思われます。

したがって、法律上は執行猶予を付されることは可能であるが、必ずしも付されるとは限らないということになります。

なお、今回のケースについては、刑法第25条1項2号が関係してくることとなります。

刑法第二十五条(刑の全部の執行猶予)

次に掲げる者が三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金の言渡しを受けたときは、情状により、裁判が確定した日から一年以上五年以下の期間、その刑の全部の執行を猶予することができる。
一 前に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
二 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあっても、その執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から五年以内に禁錮以上の刑に処せられたことがない者
2 前に禁錮以上の刑に処せられたことがあってもその刑の全部の執行を猶予された者が一年以下の懲役又は禁錮の言渡しを受け、情状に特に酌量すべきものがあるときも、前項と同様とする。ただし、次条第一項の規定により保護観察に付せられ、その期間内に更に罪を犯した者については、この限りでない。

執行猶予に関するご相談は桑原法律事務所へ

執行猶予についてご不明な点がある場合や、刑事事件でお悩みの場合は、当事務所までお気軽にご相談ください。

※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。