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法律コラム

公開日:2023.03.03

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  • 労働問題(労働者側)

中小企業も割増賃金率5割に | 月残業60時間超で | 労基法改正

目次CONTENTS

2023年4月、月60時間を超える残業(時間外労働)に対する割増賃金率が中小企業も50%に上がります。福岡・佐賀の弁護士法人 桑原法律事務所の弁護士が解説します。

時間外労働とは

時間外労働とは、法定労働時間(1日8時間・1週40時間)を超える労働時間のことを言います。

法定労働時間とは、労働基準法で定められている労働時間の上限です。

この上限時間は原則としてすべての労働者に当てはまるため、正社員やアルバイトなど雇用形態によって法定労働時間が異なるということはありません。

2023年3月までは、企業の規模によって下記のように定められていました。

 

大企業:月60時間以下だと割増率は25%。月60時間を超えると割増率50%

中小企業:時間外労働の割増率は一律25%

 

2023年4月からは下記のように変更になります。

大企業・中小企業:月60時間以下だと割増率は25%。月60時間を超えると割増率50%

中小企業とは、下記の基準の①または②を満たすかどうかで判断されます。

 

業種 ①資本金の額または出資の総額 ②常時使用する労働者数
小売業 5,000万円以下 50人以下
サービス業 5,000万円以下 100人以下
卸売業 1億円以下 100人以下
上記以外 3億円以下 300人以下

 

深夜・休日労働の扱い

2023年4月以降は企業の規模を問わず、月60時間を超える法定時間外労働について、雇用主は50%以上の率で計算した割増賃金を支払わなければなりません。

月60時間を超える時間外労働を深夜(午後10時~午前5時)にさせる場合は、深夜割増賃金率25%+時間外割増賃金率50%=75%になります。

「月60時間」の時間外労働時間の算定について、法定休日にした労働は60時間に入りませんが、法定休日ではない休日に行った労働時間は含まれます。法定休日労働の割増賃金率は、35%です。

法定休日とは雇用主が1週間に1日、または4週間に4回、与えなければならない休日です。

 

時間外労働が60時間を超えた賃金の具体例

法定休日を日曜日と仮定すると、平日・土曜日の時間外労働が60時間を超えた時間から、割増賃金率が50%になります。

たとえば運輸会社で時給1700円のドライバーを雇っているとします。月の所定労働時間が173時間、時間外労働が80時間、合計253時間を労働時間とします。

この場合、どう賃金が変わるでしょうか。

 

2023年3月まで

所定労働時間の賃金:173時間×1,700=294,100円

時間外労働時間の賃金:80時間×1,700円×1.25=170,000円

合計:464,100円

 

2023年4月以降

所定労働時間の賃金:173時間×1,700=294,100円(変更なし)

時間外労働時間の賃金:(60時間×1,700円×1.25)+(20時間×1,700円×1.5)=178,500円

 時間外労働80時間のうち、60時間を超える20時間が50%割増になります。

合計:472,600円

 

このように、1人当たり8,500円アップ(1.8%増)となります。

雇用主にとっては該当するドライバーが10人いれば、1か月当たり85,000円の負担増となります。

引き上げ分の割増賃金を支払わない場合、罰則(6か月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科される可能性があります。

 

代替休暇の付与も可能

長時間労働を抑制する目的で、1か月60時間を超える時間外労働については法定割増賃金率を引き上げることになっていますが、事業場で労使協定を締結すれば、時間外労働が月60時間を超えた場合に、割増賃金率が25%以上から50%以上に引き上げられた部分の割増賃金の代わりに、有給の休暇を付与することができます。

代替休暇は1日か半日単位です。時間外労働が月60時間を超えた当該月の末尾の翌日から、2か月以内に付与する必要があります。

代替休暇を取得するかどうか労働者の意向確認の手続き、取得日の決定方法、割増賃金の支払日等を協定で定め、就業規則にも記載します。

 

「残業代は出ない」と思い込んでいませんか?

下記のようなケースでは「残業代が出ない」と思い込みがちですが、一概には言えません。

 

管理職には「残業代は出ない」

「管理職には残業代が出ない」と言われますが、その人が労働基準法で「管理監督者」に当たるかどうかが問題となります。「管理監督者」とは、労働条件などが経営者と一体的な立場にある人のことです。

「管理監督者」になると、労働基準法で定められた労働時間や休日の制限があてはまりません。

かといって管理職がすべて「管理監督者」に該当するわけではありません。役職ではなく仕事の内容や責任など、実態によってケースバイケースで判断されます。

 

固定残業代の範囲内だと「残業代は出ない」

固定残業代制とは実際に残業するかどうかは問わず、一定額の残業代を固定額で支払う制度です。

ただし、固定残業代が支給されていても、固定残業代が想定する時間を超えて働いていたケースなどでは、残業代を請求できることもあります。

 

在宅ワークだから「残業代は出ない」

在宅とオフィスワークは、主に「働く場所の違い」だけですので、残業代の有無には直接は影響しません。残業代が出るかどうかの問題で重要なのは、会社との雇用関係です。

在宅勤務であっても、会社と雇用関係にある労働者は労働基準法の適用を受けます。労働時間や割増賃金はもちろん、年次有給休暇や解雇などの規定はすべて適用されます。

 

弁護士に相談を

残業代の認識は、雇用主も労働者も、法律的に正しく理解していないケースがあります。

「管理職だから残業代は出ない」「固定残業代をもらっている」「年俸制なので残業代は出ない」などと思い込んで残業代をあきらめる前に、法律の専門家である弁護士にご相談ください。

また雇用主の方々は、割増賃金率の引き上げに合わせ、就業規則の変更が必要となる場合があります。就業規則のリーガルチェックや作成についても承っておりますので、当事務所までお気軽にご相談ください。

当事務所では月2回、企業法務ニュースレターをメールで配信しています。ご登録は無料ですので、ぜひ下記からお申し込みください。

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※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。