公開日:2018.03.10
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自賠責の基準での支払い・重過失減額・人身傷害保険
【本記事の監修】 弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋 (代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。
目次CONTENTS
重過失減額とは
重過失減額とは、被害者の過失が大きく、70%~99%である場合に、支払われる自賠責保険金が減額されることを言います。
減額される割合は、次のとおりです。
過失割合 | 後遺障害又は死亡事故 | 傷害事故 |
70%~ | 20%減額 | 20%減額 |
80%~ | 30%減額 | 20%減額 |
90%~ | 50%減額 | 20%減額 |
※100% | 無責(支払い無) | 無責(支払い無) |
なお、被害者に100%の過失がある事故である場合には、相手の損害賠償責任はなく、相手加入の自賠責保険ないし自賠責共済(以下「自賠責」)からも賠償金は支払われません。相手側の「無責」と言います。
被害者の過失が1%~69%の場合
さて、自賠責では、被害者の過失70%~99%の場合には上記の通り減額されますが、1%~69%の場合には減額されません。
また、90%の被害者過失がある場合には、裁判所基準においては損害額から90%の減額がされた分しか相手に請求できませんが、自賠責基準においては20%ないし50%が減額されるにとどまっています。
このことから、「裁判所基準」で算定した損害賠償額よりも、「自賠責基準」で算定した損害賠償額の方が、賠償金額が高くなることがあります。
裁判所基準よりも自賠責基準の賠償金額が高くなる例
- 裁判所基準での算定損害額は金6000万円
- 自賠責基準での算定損害額は金3000万円
- 被害者60% 対 加害者40% の過失割合であるとします。
裁判所基準で相手から支払われる賠償金は、2400万円(6000万円×40%)です。
自賠責基準で相手から支払われる賠償金は、3000万円(重過失減額はなし)です。
よって、このような場合には、自賠責による賠償金の支払いのみを受けることがあります。
被害者の保険に人身傷害保険がある場合
しかし、別途考慮が必要なのが、被害者の保険に人身傷害保険がある場合です。
人身傷害保険金は、被害者に過失があっても関係無く支払われます。
したがって、人身傷害保険約款に基づいた算定損害額が金4000万円であるとすると、当該金4000万円の補償を受けることができます。
裁判所の判決などがある場合
また、すでに裁判所の判決などがある場合には、「人身傷害保険基準での損害額を上限として裁判所基準における自己過失部分の損害を補填する」という旨の約款条項があることがあります(いわゆる「読み替え規定」)。
すなわち、裁判所で損害額が金6000万円、被害者60% 対 加害者40%の過失割合とされ、金2400万円の賠償を命じる判決があれば、人身傷害保険金(支払上限4000万円)は、被害者の過失のため賠償を受けることのできていない金3600万円の部分に充当されることから、自己の保険の人身傷害保険金と相手からの損害賠償金とを合わせて、金6000万円の全ての損害額が補填されることになります。
ただし、人身傷害保険の支払上限額を金3000万円と設定して契約していたとすると、金3000万円までしか支払われませんので、補填されるのは、金5400万円(賠償金2400万円+人身傷害保険金3000万円)までとなります。
※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。