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LEGAL COLUMN

法律コラム

公開日:2019.03.05 最終更新日:2022.06.03

CASE

  • 事業承継

事業承継の注意点|遺留分・相続税・経営承継円滑法|弁護士が事例解説

目次CONTENTS

中小企業の経営者の方は、親族に経営を引き継いでほしいとお考えの方も多いと思います。事業承継を行おうとする場合には、財産承継が円滑にされるように気をつけなければなりません。

本記事では、後継者に財産を譲る際に注意すべきことについて、2つの事業承継のケースをとおして弁護士が解説いたします。

ケース1 自社株式を妻ではなく息子に承継したい

Q. 私は、飲食業を営む会社Aの代表取締役であり、会社Aのすべての株式を有しています。私の妻はまだまだ元気ですが、会社を経営することはできないので、万が一、私が亡くなったときは会社Aの株式を息子にすべて継がせたいと思っています。ただ、遺留分というものがあると聞きました。相続でトラブルが起きることは避けたいのですが、方法はあるのでしょうか。

遺留分とは、一定の範囲の相続人に認められている被相続人(亡くなった方)の遺産の取得分をいいます。本件のようなケースであれば、妻は貴方の遺産の4分の1を取得できるという遺留分を有しています。

遺言書でも遺留分を0にすることはできません。しかし、相続人(予定者)が自ら遺留分を放棄することはできます。その放棄が認められるためには、妻が家庭裁判所に放棄を許可してもらう手続きを自らおこなう必要があります。

裁判所では、以下の点などを慎重に判断されることになります。

  1. 放棄が本当に相続人(予定者)の意思によるものなのか
  2. 放棄することが客観的にみて合理的か
  3. 放棄したことによる見返りがあるのか

相続人と被相続人が納得していれば直ちに認められるというものではないので注意が必要です。

 

ケース2 長男だけに事業を承継し、次男には承継したくない

Q. 武雄さんは中小企業を経営しています。

武雄さんは、長男・武一さんに事業を引き継いでほしいと思っており、武一さんもその旨納得しています。武雄さんには、次男・武二さんもいますが、事業に関わらせるつもりはありません。武雄さんの奥さんは既に亡くなっています。

武雄さんは、財産として預金2000万円、会社用の土地建物(評価額5000万円)、自社株式(評価額4000万円)を持っています。ほかに財産はありません。

武雄さんは自分の死後、武一さんに預金と不動産、自社株式を承継させ、事業を承継させるつもりであり、その旨の遺言も書きました。

武雄さんは今、何を検討すべきでしょうか?

今回のケースでは、以下の点に気をつけなければなりません。

次男による遺留分減殺請求の問題

遺言をしていれば、自己の財産を自由に承継させられると考えている方もいるかと思います。しかし、法定相続人は民法上、遺言によっても奪われない「遺留分」という権利を持っています。

今回のケースの場合、武雄さんは全ての財産を長男・武一さんに相続させる旨の遺言をしていますが、同遺言は、次男・武二さんの遺留分を侵害していることになります。

遺留分を侵害する遺言は無効というわけではないのですが、遺留分を侵害された人は、侵害している相続人に対し、遺留分減殺請求をすることができます。

遺留分侵害額の計算

今回の場合、民法上、武二さんの遺留分侵害額は、以下のとおりです。

2750万円 =(2000万円+5000万円+4000万円)÷2÷2

したがって、武一さんがこの金額分の負担義務を負うことになります。武二さんが遺言の内容に不満を感じることをきっかけに、後継者武一さんが大きな負担を負う可能性があるのです。

遺留分減殺請求に関する法改正について

以前の法律では、武二さんの遺留分減殺請求により、会社用の土地建物について、武一さんと武二さんとの共有状態が生じることになっていました。

しかし、こうした遺留分減殺請求の効果が事業承継の支障になっていたことなどから法律が改正され、2019年7月からは遺留分を侵害された者は遺留分侵害額に相当する金銭の請求のみをすることができるようになりました。

今回の場合、武二さんは、2750万円の金銭請求のみすることができます。つまり、武二さんが遺留分減殺請求をした場合、武一さんは2750万円を支払う必要があります。上記の事例で言えば、武一さんは預金を2000万円しか承継していないのに、2750万円もの負担義務を負うことになるのです。

こうした点を見れば、やはり事業承継上のリスクがあることになりますので、武一さんへの事業承継を目指す際には、武二さんの意向を意識する必要があるのです。

相続税等の問題

武一さんが預金や土地建物、自社株式を相続した場合、相続税の負担をしなければなりませんが、その負担は決して小さいものではありません。特段の対策を取らずに事業を承継させれば、武一さんが経済的困難に直面する可能性があるのです。

遺留分減殺請求や相続税の問題を見据えた事業承継対策を

武雄さんとしては、武二さんによる遺留分減殺請求、武一さんに課税される相続税などの問題を見据え、事業承継の準備をする必要があります。法律、税務、他の相続人との関係性など、様々な観点からの検討が欠かせません。

 

これからの事業承継:経営承継円滑化法の活用

経営承継円滑化法は、中小企業・小規模事業者の事業承継を円滑に実現するための措置を講じ、中小企業・小規模事業者の持続的発展を図ることを趣旨とした法律です。

現在、事業承継が積極的に推し進められていますが、経営承継円滑化法において、旧代表者から後継者への株式の贈与、遺贈等を遺留分の計算から除外する制度(こちらも家庭裁判所の許可が必要です)も設けられており、この制度を今後、積極的に利用されるケースが増えてくるかもしれません。

経営承継円滑化法には、たとえば以下のような定めがあります。

後継者への遺留分減殺請求への事前対応

経営承継円滑化法は、民法の遺留分減殺請求に関する特例を定めています。

この特例によると、後継者を含めた現経営者の推定相続人全員が合意をした上で、現経営者から後継者に相続等された自社株式について、 ① 遺留分算定基礎財産から除外、または② 遺留分算定基礎財産に算入する価額を合意時の時価に固定をすることができます。

ケース2の事例でいえば、父・武雄さんが経営者の立場にある間に、長男・武一さんと次男・武二さんの合意を取ることができれば、死後、自社株式を遺留分算定財産の対象から除外し、またはその算入価額を固定することができるのです。

後継者となる武一さんにとっては、武二さんによる遺留分減殺請求というリスクが減ることになります。

相続税等への対応

後継者が事業を承継する際には、相続税等への対処も考えなければなりません。

経営承継円滑化法は、事業承継の際に発生する相続税等について、特別の規定を置いています。たとえば、一定の要件を充たせば、後継者が相続または遺贈により取得した株式等(ただし議決権を⾏使することができない株式を除く)に係る相続税の全額が猶予されます。

ケース2の事例でいえば、長男・武一さんが、特段の準備なく父・武雄さんの預金、不動産、自社株式を承継すれば、それに伴い相続税が課税されることになりますが、経営承継円滑化法を利用すれば、その猶予が得られる可能性があるのです。これにより、相続税による経済的困難というリスクが減ることになります。

 

事業承継の際には、遺留分減殺請求、相続税の課税など様々な問題に直面することになります。そうした問題への対処法の一案として、経営承継円滑化法の利用も検討対象になります。

桑原法律事務所のスタッフ

事業承継のご相談は弁護士法人桑原法律事務所へ

事業承継は、生前に計画を立てて進めていくことをお勧めしています。

特定の人に承継してほしい、後継者がいない等、事業の将来に気になることがある方は、当事務所の弁護士にご相談ください。

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