公開日:2019.10.28 最終更新日:2022.06.03
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会社経営者が亡くなる前に準備すべきこと|自社株式の相続について弁護士が解説
【本記事の監修】 弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋 (代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。
目次CONTENTS
将来の事業承継を見据えた準備として、遺言や、いわゆる経営承継円滑化法の利用等、様々な選択肢の中から最善の策を選び実行する必要があります。
多くの中小企業では、経営者の方が会社の株式の多くを保有されていることと思います。経営者が亡くなった場合、この株式についても相続財産を構成することになります。
経営者自身が株式を保有したまま死去した場合、株式については、相続人が法定相続分に従い共有した状態となります。相続人間で、「特定の人が株式を承継する」旨を合意する遺産分割協議が成立すればよいですが、協議が成立しなければ株主総会における意思決定に影響が生じ、円滑な経営をできなくなるおそれがあるのです。
ケース1 家族経営の会社の株式の相続
自社株式の相続について以下のようなケースをもとに考えてみましょう。
Q. 株式会社を経営しています。株式の50%を保有する父が亡くなった場合、相続人である専業主婦の母(25%の株式を保有)、私(25%の株式を保有)と経営にタッチしていない弟でどのように相続するのがいいのでしょうか? |
A. 家族経営的な会社では、特に経営を引き継ぐ方が株式を保有しておくことが、経営の安定に資することになるでしょう。
まず前提として、遺言がない場合、遺産分割が完了するまで、父の保有していた株式50%は相続人の共有となります。法定相続分に従い当然に分割されるものではないことに注意が必要です。
共有状態の株式の権利行使は持分割合に従い決定されますので、50%の株式の株式について、お母さんと弟の意向が強く反映されてしまいます。その結果、株主総会での相談者の発言力が奪われ、経営が不安定化する危険があります。
また、遺産分割後に他の相続人が株式を取得した場合にも、その保有比率により、同じような危険が生じ得ます。
今回のケースで相談者が株式を相続するためには、父に、「株式は全て相談者に相続させる」旨の遺言を作成してもらうことが確実かつ適切な解決方法となるでしょう。また、遺言を作成してもらえなかった場合には、他の財産に優先して株式の取得をするべきでしょう。
ケース2 長男だけに自社株式を承継したい
Q. 一人株主で中小企業を経営しています。子に長男と次男がおり、妻は既に他界しています。すぐに経営を任せるわけにはいかないものの、私の亡き後は、長男を後継者にと考えています。将来、会社を長男に継がせるために、どのような事をしておけばよいでしょうか。 |
何もしないまま相続となった場合、デッドロックのリスクがある
まず、何もしないまま相続となった場合の法律関係を説明します。
株式は、相続されると、相続分に応じた割合での相続人の準共有状態となります。例えば、【 発行済株式総数100株 】の場合、長男と次男とに50株ずつ分配されて相続されるわけではなく、1株ずつが、持分2分の1の準共有状態となります。
議決権行使には過半数の持分が必要なので、2分の1の持分では議決権を行使できません。子らの意見が割れたり、遺産分割で揉めたりすれば、会社の意思決定をすることができない状態、いわゆる「デッドロック」(行き詰まり)の状態に陥り、事業が大きく停滞してしまうことが懸念されます。
その予防策として、種類株式の活用、遺言、民事信託があります。以下で詳しく解説いたします。
予防策1 種類株式の活用
長男に株式の全部(または一部)を生前贈与してしまう方法では、まだ経営経験の浅いと感じている長男に、早くも会社の実権(の一部)を譲ってしまうことになりそうです。しかし、この経営権に関する問題は、議決権制限株式、取得条項付株式、拒否権付株式(通称「黄金株」)などの種類株式の活用によって対策することが可能です。
しかし、種類株式を新たに発行したり、普通株式を種類株式に転換したりするには、会社の定款や法人登記の変更などの手続が必要になります。また、黄金株はデッドロックの要因となりますので、後継者以外に渡ってしまわないよう手当を講じる必要があります。
そこで、会社の定款変更等をせずに事業承継を行うための主な方法として、遺言や民事信託も検討しましょう。
予防策2 遺言
遺言については、遺言書を作成して、株式の相続人を長男とし、遺産分割方法を指定しておくことになります。新たな遺言書を作成すれば、その新しい遺言書が有効になり、ご自身のみでいつでも変更できるのはメリットのひとつです。
しかし、他方で、将来ご自身の判断能力が多少低下してきた場合に、相続人から促され、判断能力の乏しいままに新たな遺言書を書いてしまうようなケースもありますので、注意が必要です。
また、遺言書の検認、株主名簿の名義書換等の手続に一定期間を要することは、ひとつのデメリットとも言えます。
予防策3 民事信託
民事信託のバリエーションは、いくつかあります。
例えば、【 経営者が、信託銀行等(受託者)と、次のような条件の契約内容で株式を譲渡するという信託契約を締結する 】ことが考えられます。
- 議決権行使の指図権は経営者(委託者)が有し、経営者の指図に従い、受託者が議決権行使する。
- 経営者の死亡により、信託契約は終了する。
- 信託契約の終了に伴い、受託者は長男に株式を交付する。
信託契約では、死亡後も一定期間の効力を継続させることができます。例えば、信託契約の有効期間を「経営者の死亡後10年間」などとして、その間、後継者には議決権行使の指図権のみを与えておくことなども可能です。
死亡によって当然に契約内容に応じた効力が生じますので、比較的期間を要しないのもメリットです。
また、民事信託は、遺言と同様に、事業承継に関すること以外においても活用できます。例えば、自身の預金や自宅などの財産を対象に子と信託契約を締結し、死亡後は信託契約に従って財産を分けるように、と決めておくことなどが可能です。
一方で、民事信託については信託法で規律されており、誰とでも自由な契約を締結できるわけではありませんのでご注意ください。
遺留分には配慮する必要があります
以上、ご紹介したいずれの方法をとるにせよ、次男の遺留分には配慮する必要があります。事情に応じて最適な方法は異なりますので、ご検討の際には専門家へのご相談をお勧めします。
親族以外の後継者が株式の譲渡代金を調達する方法は?
Q. 親族以外の後継者に株式を譲渡する際の譲渡代金の調達について、よい方法はありますか?
私は、現在70歳ですが、20代でA社を設立し、おかげさまで業績も好調で、従業員も500人を超える企業に成長しました。現在は、私が社長を務めていますが、私には子どもがいないため、長年会社を支えてくれた副社長Bに会社を継がせたいと考えています。 |
A. 持株会社を利用する方法が考えられます。
事業承継の際に生じる法的な問題点は数多くありますが、株式の譲渡の問題は比較的多いと思われます。
事業承継は親族に対して行われる場合もありますが、今回は親族以外の者であるBさんが、A社株式の譲渡代金をいかに調達するか、また仮に調達できたとして、その返済をどうするのかという問題です。
このような場合のスキームとしては、持株会社を利用する方法が考えられます。
- Bさんが持株会社C社を設立、
- 金融機関からC社に譲渡代金を融資、
- A社の株式をC社に譲渡し、譲渡代金をC社から社長へ。
この方法により、事業譲渡が完成します。そして、融資の返済方法は、C社がA社から得た配当金を金融機関に返済するのです。
このほかにも様々なスキームが考えられると思います。
事業承継のご相談は弁護士法人桑原法律事務所へ
会社の事業承継は、「もしも」が起こる前に、事前に検討・対策していただくことをおすすめしています。
現時点では親子・兄弟関係が良好でも、将来にわたってその関係が続くかはわかりません。近しい関係だからこそ、紛争が生じないように相続問題はしっかりとした準備をしておきましょう。
事業承継や会社の株式の相続についてお悩みの方は、当事務所の弁護士にお気軽にご相談ください。
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