公開日:2020.09.04 最終更新日:2021.11.08
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従業員との退職トラブル|有給消化や退職金の支払いを拒否できる?
【本記事の監修】 弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋 (代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。
目次CONTENTS
退職する従業員から「退職時に有給を消化したい」と言われたら、会社側は拒否することはできるのでしょうか。以下のご相談例をもとに、桑原法律事務所の弁護士が解説いたします。
Q. 退職時の有給消化を拒否できる?
ご相談 先日、従業員Aが、「3月いっぱいで会社を辞めさせてほしい。最後の20日間については、残っている有給休暇20日分を全部使い、休みとしてほしい」と言ってきました。代わりの人はすぐに見つかったので3月いっぱいで退職してもらう分には構わないのですが、3月は会社の繁忙期ですし、諸々の引継ぎもあるため、20日間も休んでしまわれるととても困ります。 退職時の有給消化を拒否することは可能なのでしょうか? |
労働者の年休権と使用者の時季変更権
有給休暇を取得する権利、いわゆる年休権は労働者の権利であり、労働者がこれを行使した場合、使用者は労働者が指定する時季にあわせ有給休暇を与えなければなりません(労働基準法39条1項、同5項本文)。
そのため、ご質問の事例でも、会社は従業員Aの申し出を断れないように思えます。
しかし、時季との関係では、例外があります。労働基準法は、「(有給休暇を)請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる」とし、使用者に対して時季変更権という権利を認めています(労働基準法39条5項但書)。
ただし、あくまで従業員の希望通りに有給休暇を与えることが原則であり、時季変更権が認められる要件を満たしているか否かは慎重に検討する必要があります。
時季変更権の行使が認められる要件
時季変更権の行使にあたっては、その時季に有給休暇を与えることにより、会社の「事業の正常な運営が妨げられるか否か」がポイントとなります。
会社が時季変更権を行使するためには、以下の要件を満たす必要があります。
- 業務遂行のための必要人員を欠くなど業務上の支障が生じること
- 労働者が指定した時季に年休が取れるように使用者が状況に応じた配慮を尽くしていること
(最判昭和62年7月10日)
また、以下のような要素も考慮して判断されます
- 企業の規模
- 労働者の職務の内容
- 業務の繁閑
- 代替要員の確保の難易
- 同時期における年休取得者の有無 など
冒頭のご相談の事例でも、こういったポイントを見ながら要件具備の可能性を検討し、時季変更権を行使するか否かを考えていくことになります。
Q.就業規則に従い、退職金を不支給にできる?
ご相談 先日、従業員Aが、突然退職届を出し、辞めると言い出しました。また、その後は会社に一切出てこず、持っていた仕事の引継ぎもしない始末です。 退職することはよいとして、当社には「引継ぎを十分にしないような場合に退職金を不支給とすることができる」という就業規則があります。会社としてはAへの退職金を不支給としたいのですが、可能でしょうか。 |
A.就業規則に規定があるからといって一律に退職金を不支給にできるわけではありません。
問題となるのは、「就業規則に従い、退職金を不支給とすることができるか」という点です。
「就業規則に『引継ぎを十分にしないような場合に退職金を不支給とすることができる』という規定があるのだからできるだろう」とお思いかもしれませんが、そう簡単ではありません。
このような問題に対し、判例は、「一般に、退職金は賃金後払的な性格をもつと同時に功労報償的性格をもあわせもつものであるから、功労の抹消に応じた減額・不支給条項も合理性がないとはいえない」としつつ、その適用においては、背信性など過去の功労の抹消の程度に応じた限定解釈を行うこととしています。
就業規則に規定があるから一律に退職金を不支給とすることができるわけではないということです。
退職金を不支給とできるかはケースバイケース
よって、上記事案における退職金不支給においても、ケースバイケースの判断となります。Aの背信性が軽いと判断されれば、例え就業規則に不支給の規定があっても、当該不支給は違法となります。
なお、参考になる事案として日本高圧瓦斯工業事件(大阪高判昭和59年11月29日)があります。
従業員の退職トラブルについては、慎重な対応が必要です。ご不明な点は、当事務所の弁護士にお気軽にご相談ください。
Q. 従業員が留学から帰ってきたとたん、退職してしまいました
従業員に1年間の語学留学を命じていました。ところが、留学から帰ってきたとたん、退職されてしまいました。留学費用は会社で負担していたのに勝手に辞められるなんて納得できません。どうしたらいいのでしょうか。 |
A. 会社の従業員を育成するために、費用は会社負担で海外に語学留学させるというのはよくあることだと思います。
留学から帰ってきてすぐに辞められるとなると、会社の損失にしかなりません。そこで、すぐに辞めないように、「〇〇年以内に辞めたら〇〇万円支払え」という趣旨の誓約書を事前に取り交わしたい、と考えるかもしれません。
しかし、労働基準法第16条には、「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。」という規定があります。
過去の多くの裁判例でも、従業員の支払いを予定した誓約書(記載内容は多種多様です)が労働基準法第16条に違反するかどうかが争われてきました。
誓約書の記載内容にもよるため、ケースバイケースではありますが、もし、労働基準法第16条に違反していると、誓約書そのものが無効になってしまいます。
従業員の留学や高額な費用のかかかる研修等をご検討の方で、労働基準法16条の問題をクリアしたいとお考えの事業所の方は、お気軽に当事務所までご相談ください。
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