公開日:2020.04.07
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新型コロナウイルスと企業の安全配慮義務|会社の責任とは
【本記事の監修】 福岡の弁護士 弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋 (代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。
目次CONTENTS
Q.新型コロナウイルス対策のための、企業(使用者)としての安全配慮義務について、どのように対応すべきか教えてください。従業員の健康管理について、企業が対応しなければならないことはありますか。
A. 従業員への感染拡大を防止するため、合理的な手段を講じることが求められます。
企業(使用者)としては、労働契約上の信義則に基づき労働者の生命や健康を危険から保護する義務(安全配慮義務)を負うとされています。労働契約法上も、「使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。」と規定しています(労働契約法第5条)。
こうした法の趣旨に照らし、企業としては、労働者が労働中に新型コロナウイルスに感染することを防止するため、合理的な措置を取る対応が求められていると言えます。
例えば、感染症を防ぐための環境整備が挙げられます。
厚生労働省によれば、換気の悪い密閉空間、多数が集まる密集場所、間近で会話や発声をする密接場面が重なると、集団感染の危険性が高まるとされています。
企業内における会議や取引先との会合では、このような要件を充たしてしまう可能性があります。
企業としては、以下のような対応が求められます。
- 労働者の感染を防止するため、そもそも実施の必要性が低ければ実施を中止する
- 実施の必要性がある場合でもテレビ会議やオンライン会議での実施など、感染拡大を防ぎつつ実施する代替案を検討する
Q.従業員が新型コロナウイルスに感染したことで、会社が責任を負うことはありますか。
A. 会社の安全配慮義務違反を問われる可能性がありますが、具体的な請求が認容されるのは例外的な場合に限定されるでしょう。
安全配慮義務とコロナ感染
会社(使用者)は、労働契約に伴い、労働者(従業員)がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をする義務を負います。これを「安全配慮義務」といいます(労働契約法第5条)。
もし、従業員が新型コロナウイルスに感染したことが会社の安全配慮義務違反に基づくのであれば、ウイルス感染による入通院費用や休業損害等の損害を賠償する義務が生じます。
業務とウイルス感染との因果関係
ここで問題となるのが、業務とウイルス感染との因果関係です。因果関係とは、「こういう事情があればこのような結果が発生することが社会通念的にも相当である」という関係性をいいます。
新型コロナウイルスについては、どのように考えられるでしょうか。
まずは、感染経路が特定されなければなりません。つまり、「この業務、この現場でこのウイルスに感染した」ということが特定される必要があります。ニュース等で言う感染経路不明という状態では足りません。
次に、当該業務等によって感染したとして、それが社会通念上相当と言える必要があります。つまり、「そのような業務に従事していたらコロナウイルスに感染するのは当たり前である」と言える必要があります。
例えば、十分な対策もなくウイルス感染者と同室で長時間の業務に従事するなどすれば、社会通念上もその業務によりウイルスに感染することが当たり前といえ、因果関係は認められるでしょう。
一方で、緊急事態宣言が出されている地域への出張といった程度では、当該地域で生活している人も大勢いることを考えれば、因果関係は認められないでしょう。
Q.新型コロナウイルス対策で、企業として在宅勤務(リモートワーク)を推奨する必要はありますか。
A. 業務への影響、事務、費用負担などを考慮し、可能な限り推奨する必要があると考えられます。
企業としては、安全配慮義務に基づき、労働者への感染を防ぐための合理的措置がもとめられているところ、在宅勤務(リモートワーク)は、従業員への感染を防ぐ上で有効な手段と考えられます。
業務への影響などは踏まえる必要はありますが、検討対象にはなるでしょう。
Q.当社は、特に従業員にリモートワークを推奨しておらず、通常通り全従業員が出社しています。従業員が業務中に新型コロナウイルスに感染した場合、会社に何らかの責任が生じますか。
A. 業務への影響、事務、費用負担などを考慮しても、在宅勤務の導入が容易であったと認められる場合には、安全配慮義務違反に基づき、一定の損害責任が生じる可能性は否定できません。
Q.緊急事態宣言下で、従業員が密状態になりやすい場所(居酒屋やパチンコ、夜の街関連等)に行くことを禁止できますか。
A. 会社として、従業員の私生活上そのような場所に行くことを禁止するなどの行動制限はできないと考えられます。
労働契約に基づく制限としては、従業員個人の自由への制約度合いが強過ぎると考えられるためです。
ただし、事業への影響を踏まえ、そのような場所へ行くことなどを控えるよう要請すること自体は可能と考えられます。感染拡大状況、予防策とあわせ、そのような場所に行くことの危険性について、積極的に啓発するのが良いでしょう。
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