公開日:2022.03.14
CASE
- 労働問題(企業側)
- 労働問題(労働者側)
「しつこく飲み会に誘う」はパワハラ? | 中小企業もパワハラ防止措置が義務化 | ポイントを弁護士が解説
目次CONTENTS
職場でのパワー・ハラスメント(パワハラ)対策を義務付けるパワハラ防止法が2022年4月、中小企業も対象になりました。
パワハラをめぐっては近年、仮処分や賠償を求める裁判が相次いでいます。トラブル防止や解決のため、中小企業はどんな対応をすればよいでしょうか。福岡・佐賀で労働問題に詳しい弁護士法人 桑原法律事務所の弁護士が解説いたします。
「中小企業」とは
「中小企業」とは、以下の資本金か従業員の数のいずれかを満たす企業となります。
職場のパワハラとは:
パワハラとは下記の要件を満たす行為です。
- 同じ職場で働く者に対して
- 職務上の地位や人間関係など、職場内での優位性を背景に
- 業務の適正な範囲を超えて
- 精神的・身体的苦痛を与える、または職場環境を悪化させる
「職場」とは原則として、勤務後の懇親会や社員寮など、職務の延長と考えられる場合も「職場」とされています。
対象は正規雇用者だけではく、パートや契約社員も含みます。
パワハラの典型は6つ
何をしたら「パワハラ」になるのかは法律上の規定はなく、裁判例でも統一的な見解があるわけではありません。
厚労省では以下の6つの類型が「パワハラ」にあたるとしています。
- 暴行・傷害(身体的な攻撃):殴る、足蹴り、物を投げるなど
- 脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃):人格を否定するような言動、長時間の叱責、罵倒するメールの一斉送信など
- 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し):仕事を外す、別室に隔離など
- 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制、仕事の妨害(過大な要求)
- 業務上の合理性なく、能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
- 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害):私物を撮影、性的指向の暴露など
もっとも、具体的な行為が上記の6類型にあたるのかという判断は非常に難しく、一義的に明らかでない場合がほとんどでしょう。
「これはパワハラにあたる?」など、少しでも疑問があれば、弁護士に相談ください。
Q.「しつこく飲み会に誘う」これってパワハラ?
A.
しつこい飲み会への誘いは「業務上の必要な範囲を超えた言動」にあたり、パワハラにあたるおそれがあります。
そもそも懇親会が「強制参加」であれば、業務時間とみなされます。
Q.全員が例年、参加する歓迎会。欠席する部下に理由を問いただすのは?
業務上に必要とはみなされず、パワハラと判断される可能性があります。
このほかパワハラにあたる可能性があるのは、下記のようなケースです。
- ミスをした部下を1時間、叱責する
- 問題がある企画書について、書類を投げつけて修正を命じる
- 業務時間中にネットサーフィンを止めない部下を、他の同僚の前でどなりつける
反対に、パワハラにあたらないのは下記のようなケースです。
- 遅刻やマナーを欠いた言動・行動を何度注意しても改善しない場合に強く注意する
- 部下への配慮を目的として、家族の状況について尋ねる
中小企業がすべきパワハラ防止措置とは
義務となる主な措置は下記の3つです。
- 方針の明確化と周知:就業規則を見直し、パワハラを禁止する規定とともに、違反した場合の懲戒規定を定めるとよいでしょう。
- 相談体制の整備:相談窓口を設置して周知します。産業カウンセラーや弁護士など、外部との連携も検討しましょう。
- 起きた後の対応:事実を正しく把握し、適切な対処が求められます。
義務ではありませんが「望ましい取り組み」として以下のような措置が考えられます。
- パワハラ研修の実施:管理職向けと一般社員向けに実施するとよいでしょう。
- 調査アンケート:社内の実態を把握するのが目的です。匿名で実施すると答えやすいでしょう。
- 労使協定の締結:労働組合(ない場合は従業員の大半の代表者)とパワハラ防止に関する協定を結び、協力して取り組む姿勢を示しましょう。
個人の尊厳を否定しない職場環境作りを
パワハラについて、アウト・セーフの線引きをはっきり設けるのは困難です。そもそも明確な線引きはすべきでないという意見もあります。
ある行為はアウト、ある行為はセーフ、などと明確にルール化してしまうと、セーフとされている行為を不当に濫用してのハラスメントが横行する可能性などもあるからです。
立場の違いや意見の違いがあっても、相手を人として尊重し個人の尊厳を否定しないようすべき根本的な意識をもって、企業は職場環境作りをすることが重要です。
パワハラ防止法の罰則:なし
「パワハラ防止措置」をとらなくても罰則はありませんが、国(厚労大臣)は事業主に対して助言や指導、勧告ができると定めています。
勧告に従わないと社名を含めて公表されます。
ただしパワハラが原因で相手が心を病んだり、退職したりすると、損害賠償を請求される可能性があります。会社のイメージダウンにもつながります。
場合によっては脅迫罪や暴行罪、傷害罪などの刑事罰が課せられ、社会的信用や地位を失いかねません。
パワハラのご相談は弁護士法人桑原法律事務所へ
福岡・佐賀の弁護士法人・桑原法律事務所では、パワハラ問題などの労働問題についてのご相談も多くお受けしております。
セミナーや研修の実施、社外のパワハラ相談窓口としての対応も可能です。お気軽にお問い合わせください。

【監修】 弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋 (代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。