公開日:2022.02.28
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無免許運転したらどうなりますか?| 罰則や捕まる確率について解説
【本記事の監修】 福岡の弁護士 弁護士法人桑原法律事務所 弁護士 桑原貴洋 (代表/福岡オフィス所長)
- 保有資格: 弁護士・MBA(経営学修士)・税理士・家族信託専門士
- 略歴: 1998年弁護士登録。福岡県弁護士会所属。
日本弁護士連合会 理事、九州弁護士会連合会 理事、佐賀県弁護士会 会長などを歴任。
目次CONTENTS
警察白書(2021年)によると、2020年の無免許運転の取り締まり件数は19,225件でした。無免許運転が発覚するとどうなるのでしょうか。罰則や捕まる可能性について、交通事故に強い福岡・佐賀の弁護士法人 桑原法律事務所の弁護士が実例をもとに分かりやすく解説します。
元都議の場合を例にあげましょう。
報道によれば、車の無免許運転を繰り返したとして、道交法違反の罪に問われた元東京都議の判決が2022年2月、東京地裁でありました。裁判官は「規範意識に問題があった」などとして懲役10か月、執行猶予3年(求刑は懲役10か月)の判決を言い渡しました。
議員を辞職したことなどを考慮して、執行猶予付き判決としています。 判決の認定では、元都議は2017年〜2021年、計12回の道路交通法違反があり、免許停止処分を4回受けました。 元都議は都議選中の2021年7月、免停中に当て逃げ事故を起こしたとの報道でしたが、東京地検は当て逃げ(過失運転致傷)に関しては不起訴(起訴猶予)としました。一方、無免許運転については、道交法違反の罪で在宅起訴していました。 |
Q1.無免許運転とは何ですか?
A1. 無免許運転とは道路交通法64条に違反する行為であり、自動車等(車・バイク・原動機付自転車)を免許なしで運転する行為です。
- 刑事罰:法定刑は「3年以下の懲役または50万円以下の罰金」(同法117条の2の2)です。
- 行政処分:行政処分としての違反点数は25点です。1回で免許取り消し(15点以上)となります。
免許がない状況によって、主に4つに分けられます。
- 一度も運転免許を受けないで運転(純無免)
- 免許を取り消された後の運転(取消無免)
- 免許の効力が停止中の運転(免停中無免)
- 免許の対象にない車両を運転(免許外無免)
なお「どこかに免許証を忘れて運転してしまった」場合は無免許運転ではなく、免許証不携帯となります(基本的に反則金3000円)。
自動車等の運転には「運転免許証の携帯」「警察官に提示を求められた際の提示」を義務付けられていますので(同法95条)、道路交通法違反として取り締まりの対象となっています。
Q2.車を提供した人や、車に同乗した人も罰せられますか?
A2. 罰せられます。
無免許運転のおそれがある者に対して、自動車等を提供した者や同乗した者にも、同じ違反点数が加算され、1回で免許取り消しとなります。
提供者:3年以下の懲役または50万円以下の罰金(同法117条の2の2) 同乗者:2年以下の懲役または30万円以下の罰金(同法64条3項、117条の3の2) |
厳しく見えるかもしれませんね。でも決まりがゆるいと交通が大混乱し、経済活動などにも影響を及ぼします。
そのため無免許運転は、重大な交通違反として扱われています。
Q3.無免許運転をするとどうなりますか?逮捕されるのですか?
A3. 初犯で事故や飲酒などがなく、取り調べに応じていれば逮捕されないこともあります。
しかし無免許運転で検挙されれば、そのまま現行犯逮捕されることは多いです。身元がしっかりしており、素直に無免許を認めていても逮捕されることがあります。
ただ罪を認め、証拠や身元の裏がとれている場合などでは1日以内で釈放されることも多いです。
逮捕は最大3日で、その後の勾留には至らず釈放されるケースも多々あります。
たとえば警察の交通検問で無免許が発覚したとします。身元を明かさず検問を突破するなどすれば、十中八九、現行犯逮捕されるでしょう。
前歴も多い常習者であれば、逮捕される可能性は高くなります。
現行犯以外でも、下記のような例では逮捕の可能性があります。
- 無免許運転に加えて人身事故などを起こした
- 任意の取り調べに応じなかった
- カーナビの記録を消すといった証拠隠滅を図っていた
さらに執行猶予中の無免許運転の再犯などであれば原則、逮捕されるでしょう。
無免許運転:検挙後の流れ
無免許運転では基本的に起訴されます。ただし、うっかり免許の期限が切れてから数日から1週間程度であれば、不起訴になることもあります。
検察官が略式起訴を決め、無免許運転をした人が略式手続に同意すれば、簡易裁判所が書面(証拠)のみで審理します。14日以内に略式命令が出され、罰金刑(50万円以下)で終わります。
ちなみに検察から納付書が届いたら、一括で支払う必要があります。
「無実なのに」などといった思いがあれば略式手続に応じず、公開での裁判を求めてかまいません。
(その場合は弁護士へのご相談をおすすめします)
Q4.元都議は逮捕されなかったものの検察は「略式起訴」ではなく「在宅起訴」し、公開の法廷で審理されています。どういった状況が考えられますか。
A4. 元都議は「初犯」とされ、通常なら略式起訴で罰金刑でしょう。
検察が在宅起訴したのは「都議」という模範として法令を遵守すべき立場であったにもかかわらず、無免許運転が「常習的に行われた」ことを重くみたことなどが理由とみられます。
Q5.元都議は執行猶予付きの判決が出ました。
A5. 初犯なら猶予付きは妥当です。
初犯の無免許運転のみであれば(よほど反省の情が見られないようなケースを除いて)多くは執行猶予が付きます。都議という立場であったとはいえ、今回の判決は妥当でしょう。
執行猶予期間中に再度の無免許運転などがあれば、今回の判決の懲役10か月と合わせて、実刑は免れないでしょう。
Q6.神奈川県警は2022年2月、免停中で無免許運転していた文部科学省職員を道交法違反の疑いで現行犯逮捕しています。
元都議は逮捕はされていませんが、文科省職員はなぜ逮捕されたのでしょうか。どういう状況が想定されますか。
A6. 逮捕するかどうかを判断する「タイミング」の違いです。
報道によれば文科省職員は、交通違反の累積で免許停止中に無免許で運転し、自転車を運転する女性にバックで衝突する事故を起こした、女性にケガはなかったとのこと。
一方、元都議も免許停止中に、バックで車に衝突させて事故を起こし、女性に軽傷があり、さらには現場から逃走した、ということです。
文科省職員も元都議も、捜査機関に罪を認めた、と報じられています。
この場合、元議員は逮捕されず、文科省職員だけ逮捕されているのは「議員の特別扱い?」と思われるかもしれません。
しかし個人的な推測ですが、逮捕するか否かを判断するタイミングの違いが大きな理由と思われます。
文科省職員は、現場に警察官が臨場しての「現行犯逮捕」です。
現場にいる警察官は、無免許運転をして事故を起こした人物が、文科省職員なのかどうかなどの裏もすぐには取れません。逃亡されれば犯人を取り逃がします。
そのとき・その現場で、現行犯逮捕するかどうかの判断を迫られ、逮捕したのではないでしょうか。
元都議:警察は現場におらず「逮捕の必要性はなかった」
一方、元都議のケースは、警察が現場に臨場できたわけではありません。当て逃げをした車両と所有者を探し、都議であったと判明したようです。
その後、任意での取り調べに応じて罪を認めた時点などで、改めて逮捕するかどうか判断されます。
元都議の場合はドライブレコーダーで、既に証拠もあったようです。この時点で、改めて逮捕の必要性はないと判断したのでしょう。
逮捕自体は刑罰ではない
そもそも「逮捕」は、最大3日ほどの身体拘束はあっても、それ自体が刑罰ではありません。
被疑者が「逃亡」や「証拠隠滅」をしないよう、身柄を拘束して捜査を進めるための手続きです。
「逃亡」や「証拠隠滅」を図るおそれを判断するには、様々な事情を考慮します。
例えば下記のような事情です。
- 罪の重さ
- すでに証拠が固まっているか
- 口裏合わせの危険がないか
- 生活拠点が定まっているか
- 家族がいるか
- 定職があるか
- 逃亡生活のできる年齢・体力があるか
例えば無職の人などが逮捕される事案で、社会的な地位が高い人が逮捕されないと「特別扱いか?」などとバッシングが集まりがちです。
一応の理屈では「相応の地位や生活基盤もあり、やすやすと逃走できない(=逃亡のおそれは低い)」などと判断されたと説明できます。
元都議の無免許運転や当て逃げの現場に警察官がいた場合、元都議も現行犯逮捕されていた可能性はあると思います。
当て逃げについて不起訴にした理由は
担当検察官にしか分かりませんが「嫌疑不十分」(証拠不十分での不起訴処分)ではなく、「起訴猶予」(事故の軽重や反省・情状などを鑑みての不起訴処分)とのことです。
そうであれば、個人的には、合わせての起訴があってもよかった事案ではなかろうかと考えます。
Q7.無免許運転で逮捕されると会社にばれますか?ばれたらクビになりますか?
A7. 逮捕されただけでクビには原則、なりません。
業務中である場合や、社用車を運転している場合などでは、会社が、無免許運転者に対する車の提供者である嫌疑もありますので、警察の捜査が及ぶ可能性があります。
そうでなくても、無免許運転で検挙されれば現行犯逮捕されることは多く、3日間の逮捕があれば、おのずと発覚する可能性もあります。
単に逮捕されただけでクビになるということは、どんな職業でも、基本的にはできません。
以下、無免許運転の刑罰が確定した場合を前提にお話しします。
企業においては、職種・業種などによるのでしょうが、クビ(懲戒解雇)になる可能性はあります。
会社の就業規則で、無免許運転その他の刑事罰について「懲戒対象か否か」の記載があることが多いです。
公務員は刑罰確定後「クビ」
地方公務員や国家公務員は、基本的にクビ(懲戒免職)になります。
議員は選挙で選ばれている代表です。とりわけ国会会期中の国会議員には不逮捕特権が憲法上も保障されており、逮捕に関しては、一定の立場保障があります。
反対勢力の妨害のための逮捕工作合戦となってしまっていた歴史が背景にあります。
選ばれる側(被選挙権者)の無免許運転などは言語同断なのですが、とはいえ、選ぶ側(有権者=選挙権を持つ者)も、なんでこんな人が選ばれてしまったのか、と後悔しないよう、選挙に関わっていかなければならないことを改めて感じさせられます。
ちなみに弁護士も資格を失います。
※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。