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LEGAL COLUMN

法律コラム

公開日:2022.12.13

CASE

  • 労働問題(企業側)
  • 企業法務

労働基準監督署の調査とは|企業はどう対応|弁護士が解説

目次CONTENTS

労働基準監督署(労基署)は、労働基準法などの労働関係法令が遵守されているかどうかについて、事業者などを監督する機関です。場合によっては、事業者に対して是正勧告を行うなどの強い権限があります。労働基準監督署の役割や、中小企業が取るべき対応について、福岡・佐賀で企業法務に精通する弁護士法人 桑原法律事務所の弁護士が解説します。

労働基準監督署の業務とは

労働基準監督署は、厚生労働省の第一線機関として労働基準行政を行っています。
以下の4つの課が置かれています。

  • 方面(監督課)

臨検監督、申告処理、 司法警察事務、許可・認定事務などを行う。

  • 安全衛生課

機械・設備の設置等に関する届出審査、安全衛生指導などを行う。

  • 労災課

労災補償事務、労働保険の適用・徴収などを行う。

  • 業務課

庶務経理事務などを行う。

厚生労働省HP「労働基準監督署の役割」より

 

労働基準監督署の業務は、下記などの法律に基づいて行われます。

労働基準法、労働安全衛生法、じん肺法、作業環境測定法、労働者災害補償保険法、最低賃金法、賃金の支払の確保等に関する法律、家内労働法 など

労働者の労働条件や安全衛生を確保し、被災労働者やその遺族に対する労災補償の迅速かつ適正な給付を行うために、下記のような業務を担当しています。

  • 管内の事業場に対する監督指導、悪質事案に対する捜査・送検
  • 事業主等から提出される許可申請、認可申請、届出等の処理・審査・実地調査
  • 解雇・賃金不払などに関する申告処理・相談対応:具体的には違法な長時間労働や残業代や退職金の未払い、不当な解雇など
  • ボイラー、クレーン等の落成検査等
  • 労働災害の調査:労災隠しがないかどうか
  • 労災保険給付請求書の受付・審査・実地調査・給付
  • 被災労働者の社会復帰対策の促進
  • 労働保険の適用、保険料の徴収
  • 石綿による健康被害の救済に関する法律に基づく、特別遺族給付金給付業務
    など

労働基準監督官とは


労働基準監督官は、上記の法律にもとづいて、事業場の検査・監督や法令違反をした企業の捜査・送検といった業務を担当しています。

労働基準監督官には「行政監督としての権限」と「司法警察官としての権限」の2つの権限があり、「行政監督としての権限」のひとつに、労働基準監督官による事業場への立ち入り調査(臨検)があります。

「司法警察官としての権限」については、労働基準法102条に定められています。

労働基準法102条
労働基準監督官は、この法律違反の罪について、刑事訴訟法に規定する司法警察官の職務を行う。

事業主に法律違反があり、度重なる指導をしても是正しないなどの重大・悪質な事案については、労働基準監督官は「司法警察官」として警察と同等の権限を行使できるとされています。具体的には、刑事事件として任意捜査、捜索・差押え、逮捕、送検などを行うことが認められています(司法警察事務)。

法令違反とならないよう、事業主に課せられる義務をしっかりと把握し、遵守しておくことが重要です。

労働基準監督署の調査とは


労働基準監督署が行う監督指導(臨検監督)には、以下の4種類があります。

  1. 定期監督
    労働基準監督署が定期的に実施する調査です。労働基準監督署ごとの年間計画に基づき、任意に調査対象が選ばれ、事業場の臨検、調査、指導が行われます。
    調査対象となる事業場は、各種の情報をもとに違法の疑いのある事業場が計画的に選定されます。
  2. 申告監督
    労働者等からの申告に基づき、事実確認を行うものです。賃金未払いや不当解雇、ハラスメントなどの企業の法令違反について、労働者の権利救済を求める申告があった場合に行われる調査です。
  3. 災害時監督
    一定以上の労働災害が発生して労働者が死傷した際に、企業の法令違反が疑われる場合に行われる調査です。労災の発生状況や原因、法令違反の有無などについて調査し、再発防止のための指示や指導を行います。
  4. 再監督
    上記3つの調査で指摘された法令違反が、その後是正されているかを確認するための立入調査です。

労働基準監督署の調査の流れ

1. 予告(ない場合も)

労働基準監督署の調査は、通常、事前予告が行われるケースが多いと思われます。書面や電話、FAXなどにより通知されます。

ただし、事前に通知すると隠ぺいや偽装をされるなどの恐れがある場合には、抜き打ちで調査が行われることもあります。臨検監督の場合は、原則として事前通知は行われません。

臨検を拒否する、妨げる、忌避するなどした場合には、30万円以下の罰金刑に処される可能性がありますので、真摯に対応しましょう(労働基準法第120条)。

なお、立入調査を行う必要がないと判断された場合は、「出頭要求書」が届きます。この場合は、労働基準監督署に必要書類を持参し、軽い質疑応答のみで調査を終えます。

2. 立入調査の実施

立入調査は通常、労働基準監督官2名が事業場を訪問し、監督官の権限(予告なしの立ち入り、帳簿書類の確認・従業員への尋問、調査拒否等の場合の処罰など)を説明しながら調査を開始します。

労働基準監督官による調査の流れは、事案により異なりますが、おおむね以下のような流れで行われます。

  1. 資料の要求と確認:
    労働関係帳簿などの資料の提出を求められます。法定の帳簿に限らず、様々な書類の提出が求められることがあります。
  2. 事業主や責任者への事情聴取:
    帳簿などの不明点などについて確認されます。
  3. 事業場内への立入調査や労働者へのヒアリング:
    勤務実態などを確認されます。
  4. 口頭による改善指導や指示

監督官の尋問に対して陳述をしない、虚偽の陳述をする、帳簿書類の提出をしない、虚偽の帳簿書類を提出するなどした場合も、30万円以下の罰金刑に処される可能性がありますので、注意しましょう(労働基準法第120条)。

調査の結果、問題がない場合はここで終了となります。

3. 是正勧告、改善指導、使用停止命令等

労働基準監督官による調査の結果、労働基準法などの法令違反があれば「是正勧告書」による指導が行われます。

法令違反以外の事項について指導を行う必要がある場合には、「指導票」による指導が行われます。

また、施設や設備の不備などにより労働者に危険が及ぶ可能性があり、緊急を要する場合には「使用停止等命令書」が交付されます。これは、危険性の高い機械などの使用停止・変更や作業の停止等を命ずる行政処分です。

「是正勧告書」や「指導票」には法的拘束力がありませんが、「使用停止等命令書」には法的拘束力があります。命令に従わない場合は、6か月以下の懲役または50万円以下の罰金刑に処されます。

4. 是正報告書の提出

是正勧告書や指導票を受け取った場合は、労働基準監督署が定める期限までに改善に取り組んだうえで、報告書(是正報告書または改善報告書)を提出する必要があります。

是正・改善が確認された場合は、そこで指導が終了します。

提出期限を過ぎても提出しない場合や、企業の対応が悪質な場合などは、再監督が行われます。

労働基準監督署の調査で必要な書類と注意点

労働基準監督署の調査で必要となる書類と、それぞれの注意点について確認しておきましょう。

必要となる書類は調査によって異なるため、一概には言えませんが、以下のような書類の提出を求められる可能性があります。

  • 法定三帳簿
    法定三帳簿とは、労働者名簿、賃金台帳、出勤簿(タイムカード等)のことです。労働基準法では、労働者を雇用した場合、法定三帳簿を整えて一定期間保存することが義務づけられています。
  • 雇用契約書(労働条件通知書)
    企業は労働者を雇い入れる際に、賃金や労働時間などの労働条件について、法定の事項を書面の交付により明示する必要があります。労働条件が、労働基準法を遵守しているかも重要です。
  • 就業規則
    常時10人以上の従業員を使用する企業は、就業規則を作成し、労働基準監督署に届け出る必要があります。
    就業規則を労働者に周知しているか、内容がいまの実態に合っているか、法改正に即しているかといった点なども確認しましょう。
  • 時間外・休日労働に関する協定届(36協定)
    時間外労働や休日労働を行わせる場合は、労働者と36協定を締結し、その上限時間を管轄の労働基準監督署へ届け出る必要があります。
    時間外労働や休日労働を行わせた場合に、上限時間を超えていないか、割増賃金が未払いになっていないか(計算方法が間違っていないか)などについて確認しましょう。
  • 年次有給休暇管理簿
    年次有給休暇管理簿とは、基準日、日数および時季を労働者ごとに明らかにした書類です。労働者ごとに作成し、3年間保存する必要があります。
    年次有給休暇を10日以上付与された労働者について、取得日数が法定基準である年間5日を下回っていないかなども確認しましょう。
  • 健康診断個人票
    常時使用する労働者を雇い入れる時とその後1年以内ごとに1回、法定の項目について、定期健康診断を行う必要があります。実施状況や実施時期について、労働安全衛生法に則して適切に実施されているかを確認しましょう。健康診断結果は、企業も保管する必要があります。

そのほか、下記の書類も求められる可能性があります。

  • 会社組織図
  • 変形労働時間制など、当該企業で必要となる労使協定
  • 変形労働時間のシフト表
  • 総括安全衛生管理者の選任状況のわかる資料
  • 安全委員会・衛生委員会の設置・運営状況のわかる資料
  • 産業医の選任状況のわかる資料

など

労働基準監督署から調査の予告が来たら

調査で必要となる書類は、予告の際に準備をするよう指示される場合があります。まずは誠実な対応を心がけましょう。資料の改ざんや廃棄をしないことは言うまでもありません。

 

労働問題については弁護士にご相談ください

労働基準監督署の調査で指摘される前に、日頃から問題がないかをチェックし、改善策を講じておくことが大切です。

顧問弁護士に定期的に相談して、適切な労務管理や企業運営ができているか等について法的なアドバイスをもらっておくことも有効です。そうすることで、いち早く問題点を見つけて改善策を講じたり、将来発生する可能性のある法的リスクを未然に回避したりすることができます。

もし労働基準監督署の調査が入った場合でも、顧問弁護士であれば、調査への対応についてすぐに相談・依頼できることもメリットでしょう。

労働問題に関してお困りごとがあれば、ぜひ当事務所の弁護士にご相談ください。

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