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公開日:2023.04.17

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「デジタル給与」が解禁 | 労基法改正 | 労使のメリットとは | 弁護士が解説

目次CONTENTS

改正労働基準法が2023年4月に施行され、スマートフォンのアプリなどを使うデジタルマネーによる給与払い(デジタル給与)が可能になります。仕組みや労使双方のメリット・デメリットについて、福岡・佐賀の弁護士法人 桑原法律事務所の弁護士が解説します。

 

「給与のデジタル払い」とは 

企業から労働者への賃金の支払いは原則として、「通貨」によって支払わなければならないと定められ、(労働基準法24条)厚労省が所管しています。

「通貨」とは現金のことで、貨幣と紙幣(日本銀行券)をいいます。

ただし現在は、労働者が指定する銀行の口座振込が主流でしょう。これは労働者が同意した場合の例外として認められています(労働基準法施行規則7条)。

この扱いは、今回の法改正によって変更されるわけではありません。

今回の改正では賃金の支払方法が「現金」「銀行振込」に「デジタル払い」が加わったことになります。

会社は労働者が同意したケースに限り、給与のデジタル払いが可能となります。

ただし給与のデジタル払いは会社に義務付けられるものではありません。会社にとっては、給与の支払の選択肢が増えたに過ぎません。また会社から労働者に対し、給与のデジタル払いを強制することもできません。

反対に、労働者からデジタル払いを希望されても会社が応じる義務はありません。

 

デジタル払いの対象「〇〇ペイ」

デジタルマネーによる給与の支払いは、資金移動業者が発行するデジタルマネー(資金移動マネー)のみが対象となります。現金化できないポイントや仮想通貨での支払いは認められません。「資金移動業」とは、銀行以外の者が為替取引を業として営むことをいいます。

具体的には「PayPay」「LINE Pay」といった「〇〇ペイ」で、銀行口座などとひも付けるなどしてチャージ(入金)したお金を、スマートフォンのアプリなどで決済します。

現金とほぼ同じ扱いが可能になるように、下記の条件が課せられています。

  • 残高を1円単位で別の銀行口座へ移動するなど現金化できること
  • 少なくとも毎月1回は、手数料を負担せずATMで現金化できること

 

口座の上限は100万円

口座残高の上限は100万円です。賃金の一部をデジタルマネーで受け取り、残りを銀行口座で受け取ることも可能です。賃金のデジタル払いを開始するためには、労働者の過半数で組織する労働組合(ない場合は労働者の過半数を代表する者)と、デジタル払いの対象となる労働者の範囲や取扱指定資金移動業者の範囲などを記載した労使協定を締結する必要があります。

 

 

従業員にとってデジタル払いのメリットとは

利用者としては決済アプリなどに給与から定額が振り込まれれば、残高に「チャージ」する手間が少なくなるのがメリットとして挙げられます。

デジタル払いなので、銀行のATMで現金を引き出す手間も省けることになります。

働いてから報酬を受け取るまでの期間が短い方を好む傾向にある、日雇いの労働者やアルバイトなど、非正規労働者の利便性も向上するでしょう。

 

企業側にとってデジタル払いのメリットとは

企業の多くは現在、給与を銀行振込にしているでしょう。その際に発生する手数料は、従業員の人数によっては大きな負担です。

一般的に資金移動業者のアカウントへの送金には、銀行振込ほどの手数料はかからないため、デジタル払いを利用すると手数料を減らすことができる可能性があります。

外国人労働者への給与支払いが容易になることもメリットとして挙げられるでしょう

在留期間が短い外国人労働者にとって、銀行口座の開設はハードルが高い場合があります。携帯電話の番号やパスワードなどの情報で送金できるデジタル払いは、利便性が高いとされています。

デジタル払いの導入で給与の支払いに対応できれば、労働力を確保しやすくなるというメリットも生まれるでしょう。

 

デジタル払いのデメリット 

企業が指定した資金移動業者が破綻した場合、法律による補償の規定はなく、補償内容は業者によって様々です。このため、資金の保全や不正引き出しなど安全性に対する懸念が挙げられます。

また前述のように資金移動業者への振り込みには100万円の上限が設定されているため、高額な給与の支払いには適さないというデメリットもあります。

 

デジタル払い導入の流れ

会社がデジタルマネーによって給与を支払うためには、以下などの手続きが必要です。

  1. 就業規則の整備:就業規則に「労使協定で被雇用者の同意を得た場合、デジタルマネーによって給与を支払う」などと規定します。
  2. 労使協定の締結:前述の通り、会社がデジタル払いをする場合、労使協定を締結する必要があります。労使協定には①口座振込み等の対象となる従業員の範囲②口座振込み等の対象となる賃金の範囲およびその金額③取扱金融機関、取扱証券会社および取扱指定資金移動業者の範囲④口座振込み等の実施開始時期を記載します。
  3. 従業員への説明:企業は、給与のデジタル払いを希望する従業員については、それぞれ同意を得る必要があります。同意の前には制度の内容や留意事項などの説明をしなければなりません。主に①給与のデジタル払いの制度の趣旨②資金移動業者口座の資金③資金移動業者が破綻した場合の保証などについて説明します。

給与のデジタル払い制度の趣旨として、預金ではなく主に決済や送金に用いることについて従業員に理解してもらいます。

  1. 従業員の同意(同意書):制度の利用について、従業員の同意書が必要です。同意は、書面や「電磁的記録(電子メールなど)」とされています。

同意書の例はこちら

 

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※本記事は、公開日時点の法律や情報をもとに執筆しております。